原田マハ著「モダン」 MOMA初代館長「アルフレッド・バー」との出会いから「スティーブ・ジョブズ」との出会いへ。
原田マハ著「モダン」の3篇目は「私の好きなマシン」で、ニューヨーク生まれの幼いジュリアが両親に連れられて初めてMOMA(ニューヨーク近代美術館)を訪れるところから始まっています。 その時のメインの展示は1929年に27歳の若さでMOMAの初代館長となった「アルフレッド・バー」のアイデアにより企画された「マシン・アート展」でした。 アルフレッド・バーの「知らないところで役に立っていて、それでいて美しい。そういうものをアートと呼ぶ」という強い信念のもとに開かれた展示の中でジュリアは特に「ボール・ベアリング」の美しさに惹かれます。 仕事上、工場のロビーに展示されたベアリングを何度か見たことがありますが、それが美しいと思ったことは残念ながら私にはありませんでした。 ジュリアの父親が経営する美術論文などを扱う小さな書店のお客さんでもあったアルフレッド・バーに帰りがけに家族は声を掛けられ、その時初めて彼がMOMAの館長であることを知り、ジュリアはボール・ベアリングに魅せられたことをアルフレッド・バーに伝えます。 時は流れ工業デザイナーを目指すジュリアは偶然に図書館近くの公園で頬がこけて生気の無いアルフレッド・バーと再会し短い会話を交わし「またMOMAで会いたい」と告げます。 不運なことに公園で偶然出会った1943年にアルフレッド・バーはMOMAの理事長との確執から館長を解任されてしまい(1966年まではMOMAに顧問として就任)その約束は果たされることはありませんでした。 さらに時は流れ、工業デザイナーへの道へと進んだたジュリアはMOMAでデザイン部門のキュレーターを勤める友人パメラから、ジュリアがデザインした「電卓」に目をとめた「スティーブ・ジョブズ」から全く新しいコンピュータ、マッキントッシュ・プロジェクトのチーフ・デザイナーにジュリアを迎えたいというメッセージを伝えられます。 初代のマッキントッシュが発売されたのは1984年で、アルフレッド・バーが亡くなって3年後です。ジュリアとパメラにとって「伝説の人、私達のアルフレッド」と呼ぶ彼の信念やアートに対する愛情ががこちらにも伝わってくるような小説の内容です。 画家、モデルやコレクターの人生だけでも十分絵画好きを惹きつける要素が満載ですが、美術館の館長をテーマにした小説というのは私には全く初めてでした。