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リュウちゃんの懐メロ人生

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2013年02月17日
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カテゴリ:外国映画(洋画)

 

虎が出てこない漂流譚

果たしてどんな物語だったのか?

リチャード・パーカーとは何物だったのか?

raft_of_the_medusa[1]1.jpg

テオドール・ジェリコー「メデューズ号の筏」)

 

「少年タイガー」第11巻(簡潔編・表紙絵)

tiger11.jpg

漂流している時のパイ少年は、ベンガル虎のことを、常に「リチャード・パーカー」と呼んでいます。「リチャー」ではなく、「パーカー」でもなく、常にフル・ネームの「リチャード・パーカー」、これは、この破天荒な物語を読み解くキーワードに違いない筈です。

 

少年が虎を、常にフルネームの「リチャード・パーカー」と呼んだ真の意味は何なんだろう?

 

リュウちゃん、前回のブログでは、18世紀末、イギリスで起こった「ノアの反乱」の首謀者の名前から取ったものではないかと推定したのですが、どうも見当違いだったようです。

前回(2)のブログを更新した後に買い求めた映画のパンフレットには、「リチャード・パーカー」の名前の由来について、一つの小説と一つの実話の話が出てきます。以下にその話を書いてみます。

 

(「リチャード・パーカー」についての2つの話)

 

(1)   エドガー・アラン・ポーの長編小説「ナンタケット島のアーサー・ゴードン・ビムの物語」(小説):この小説は、1838年に発表されたポー唯一の長編小説です。この小説の前半のエピソードに以下のような話が出て来ます。

 

「海洋の真ん中で4人の男が遭難し、一隻のボートで漂流することになる。僅かな食料も尽き果て、このままでは4人共、ボートの上で餓死するのは必至の状態、そこで彼らは一人でも生き残るために、クジをひいて、クジに当たった男を殺し、その男を食べて飢えをしのごうとする。

不幸にもこのクジ引きに当たったキャビンボーイはその場で殺され、3人に食べられてしまう

この不運なキャビンボーイの名はリチャード・パーカーであった。

(2)   1884年の「ミニョネット号事件」(実話)

1884年、イギリス船籍のミニョネット号が難破、乗組員4人(船長、船員2人、給仕の少年)が救命艇で漂流することになったが、僅かな食料はすぐに枯渇、漂流19日目、船長は仲間のためにその身を捧げる人をクジ引きで決めようとしたが、一人だけ反対者がいたのでこれは断念、しかし翌日、給仕の少年が海水を飲んで衰弱した為、船員がこの少年を殺し、その死体は残った3人の食料になった。

この哀れな17歳の少年の名はリチャード・パーカーだった。

 

 

映画を観ている時には、余り気にしなかったのですが、後で考えて見ると気に掛かった点が二つあります。

一つは、難破した船から投げ出されたパイの両親はどうなったのか?という点、

もう一つは、メキシコのトマトランの海岸に漂着した時、虎のリチャード・パーカーは後も振り返らずに密林に消えてしまうという点です。この二つ目の気掛かりな点につきましては、若し成人したパイが作家に語った「虎と漂流した話]が事実であったとするならば、きっとパイを救助した人達は、この虎を捕獲しようとする筈です。映像では、そうはせずに、密林の中に消えていく虎を漫然と見送っていただけなのです。この映像から、パイが話した「虎と漂流する話」の信憑性が疑わしくなり、「虎の出てこなかった漂流譚」こそが、少年パイが実際に体験した事実だったのかと、映画を観終わったあとでリュウちゃんは思いました。

映画「ライフ・オブ・パイ」の原作「パイの物語」(原題:Life of Piは、カナダの作家ヤン・マーテルによって2001年に発表され、翌2002年にイギリスの権威ある文学賞であるブッカー賞(長編小説に与えられる文学賞)に選ばれました。唐沢則幸氏が訳し、2004年に出版された日本語版ハードカバーは479Pの大長編小説です。

 

映画では語られなかった「「虎の出てこなかった漂流譚」は、原作では詳細に語られているようです。

リュウちゃんは原作を読んでいませんが、読んだ人の話を総合すると、救命ボートに乗り込んできた動物は以下のように置き換えられているようです。

 

瀕死のシマウマ=日本人の船乗り、

オラウータン=パイの母親

ハイエナ=コック

ベンガル虎のリチャード・パーカー=少年パイ

 

そして、ただ一人生還したのは、ポーの小説や「ミニョネット号事件」とは逆に、リチャード・パーカーとして語られた「厳格なベジタリアン」だった少年パイだけだったのです。

 

少年パイがこのような形で生還出来たのは、幼い頃から育んだギンドゥー教、イスラム教、キリスト教の3っつの宗教を受容した類い稀な自由な精神と、円周率に象徴される近代的知性の持ち主だったからだとリュウちゃんは思いました。

 

この話と共通した話をリュウちゃんの知っている限り以下に挙げてみます。

(フィクション)

ロード・ダンセイニ「二瓶のソース」(短編ミステリー)

ヒッチコック劇場「特別料理」(TVドラマ)

(ノン・フィクション)

1816年「メデューズ号の筏」事件

1944年、北海道羅臼町の「ひかりごけ」事件(武田泰淳の小説「ひかりごけ」)

1972年、「アンデスの聖餐」事件

 

 

アン・リー監督の映画では、この「虎が出てこない残酷な話」を、映像には出さなかったことによって、本当は残酷な筈だった「パイの物語]を、「残酷なまでに美しいアドベンチャー映画」に仕上げたと、リュウちゃんは感じました。

 

もうすぐ2013年アカデミー賞授賞式です。11部門でノミネートされた「ライフ・オブ・パイ」、果たしてどんな結果になりますことやら?






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最終更新日  2013年02月17日 06時26分23秒
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