ポール・ドラローシュ<レディ・ジェーングレイの処刑>
正に斬首刑に処せられようとするイングランド初代女王ジェーン・グレイ、
観る者を凍りつかせる「怖い絵」だ!
9月2日(土)、神戸市にある「兵庫県立美術館」に「怖い絵」展を観に行って来ました。
<「怖い絵」展HP、7月22日~9月18日>
http://www.artm.pref.hyogo.jp/exhibition/t_1707/index.html
リュウちゃんがこの展覧会を「観たい!」と思ったのは、ブリューゲル「バベルの塔」展を観たあと、大阪駅の構内で、冒頭の<レディ・ジェーン・グレイの処刑>の巨大なポスターに釘付けになってしまったからです。
何と「怖い絵」なのだ!
実物はどんなに凄い絵なのだろう?
誰が描いた絵なのだろう?
この絵だけでも実物が観たい!
という訳で、9月2日に神戸に出掛けたという次第です。
PM2時、「兵庫県立美術館」に到着、
チケット売り場は長蛇の人の列、
こりゃ、この前の「バベルの塔」展よりも混んでいる!
結局、チケット売り場に並んでから会場に入場するまで、1時間も掛かってしまいました。
この展覧会は、ドイツ文学者・西洋文化史家でエッセイシストの「中野京子」氏の監修による特別展覧会です。
中野氏は2007年に「怖い絵」という美術エッセイを出版しました。
<中野京子「怖い絵」>
このエッセイのコンセプトは以下です(出版社のキャッチコピーをそのまま貼り付けます)
<だれもが知っている西洋名画の数々。見慣れた名画には、驚くべき怨念や冷酷や非情や無惨が込められている。一読すれば、以後、平然と絵の前を通り過ぎることができなくなること請け合い。親切でやさしく「怖いもの見たさ」の感情に強く訴える美術エッセイ>
このエッセイは評判を呼び、現在まで3巻が刊行されています。
以下に、全3巻で取り上げられた「怖い絵」全60点を紹介したYou-Tubeを貼り付けます。
<中野京子「怖い絵」掲載画集>
https://www.youtube.com/watch?v=IS0E6mioZM4
今回の展覧会は上記の掲載画集に準拠してはいるのですが、古今の名画を一堂に集めるのは不可能です。「怖い絵」として有名なベックリンの「死の島」やジュリコーの「メデュース号の筏」も展示されていますが、残念ながら「模写」なのです。しかし、中野氏の「怖い絵」を味わう上で、妨げになっているとはリュウちゃんには思われませんでした。
さて、会場に入ります。今回のブログでは、展示されている「名画」に加えて、関連する作品もネットから拾ってみました。
これは、リュウちゃん版「怖い絵」なのだ(苦笑)
<第1章「神話と聖書」>
<ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス「オデュッセウスに杯を差し出すキルケ―」>
古代ギリシャの長編叙事詩「オデュッセイア」から題材を取った作品です。
英雄オデュッセウスがトロイア戦争の勝利の後、凱旋する途中、10年にも及ぶ漂流をします。
「キルケ―」はアイアイエー島に住む「魔女」で、キルケーの住むアイアイエー島にたどり着いたオデュッセウスの部下たちは、キルケーの差し出す食べ物を食べて豚に変えられてしまいますが。オデュッセウスのみは、魔法の力で豚に変えられませんでした。キルケは魔法が効かない相手に屈して部下たちを元の姿に戻します。オデュッセウスはキルケーの魅力にとりつかれ、1年間キルケーとともに過ごしました。
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス(1849~1917)は19世紀イギリスの「ラファエル前派」の影響を受けた画家で、ギリシャ神話やアーサー王伝説などに基づいた絵で有名な画家です。
<ハーバート・ジェイムズ・ドレイパー「オデュッセウスとセイレーン」>
長編叙事詩「オデュッセイア」の中で最も有名なエピソードを題材にした絵です。
「セイレーン」は海に住む怪物で上半身は人間の女性、下半身は鳥又は人魚、美しい歌声で人間を誘い、誘われてセイレーンの島に近づいた人間はセイレーンに食い殺されてしまうという恐ろしい話です。
セイレーンの甘美な歌声は、ドビュッシーの管弦楽曲「夜想曲」の第3楽章「シレーヌ(セイレーン)」で聴くことが出来ます。
<ドビュッシー「夜想曲」第3楽章「シレーヌ」>
https://www.youtube.com/watch?v=-QMAlGAoiuQ&t=81s
画家のハーバート・ジェイムズ・ドレイパー(1863~1920)はイギリスの「ラファエル前派」の一人で、やはり神話や文学を題材にした作品を多く残したようです。
「オデュッセイア」の「セイレーン」のエピソードは特に19世紀イギリスの「ラファエル前派」の画家たちを刺激したようで、幾つかの「名画」があります。
<ジョン・ウィリアム・ウオーターハウス「セイレーン」>
<デドワード・バーン=ジョーンズ「セイレーン」>
リュウちゃん、10年ほど前、澁谷Bunnkamuraで開催された「ラファエル前派展」を観に行ったことがあります。
この時に見たミレイやバーン・ジョーンズの絵は、「怖い絵」という括りでリュウちゃんの心の中に定着したのでした、この時、印象に残った絵を3点挙げます。
「ポーの一族」などで著名な女性漫画家、萩尾 望都はラファエル前派の影響を受けているとリュウちゃんは勝手に想像しているのです。
<ジョン・エヴァレット・ミレイ「オフェーリア」>
<エドワード・バーン=ジョーンズ「廃墟の中の恋人」>
<ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「プロピルセナ」>
会場にはもう一点、セイレーンの絵が展示されていました。こちらのほうが「怖い絵」ですね(かな?)
<ギュスターヴ=アドルフ・モッサ(1883~1971)「飽食のセイレーン」>
<第2章悪魔・地獄・怪物>
<アンリ・ファンタン=ラトゥール(1836~1904)「聖アントニウスの誘惑」>
「聖アントニウス」は3世紀にエジプトで生まれたとされる伝説の聖人です。敬虔なキリスト教徒だったアントニウスは20歳の頃、両親と死別、両親の財産を貧しい人々にすべて分け与え、自らは長年に渡りナイル河畔の沙漠に籠り、苦しい修行を続けたとされています。
沙漠での修行中、様々な悪魔や魑魅魍魎の怪物たちが彼を堕落させようと「誘惑」します。悪魔の誘惑に苦闘する聖アントニウスの姿は、古今、恰好の絵の題材になりました。
以下に、幾つかの「聖アントニウスの誘惑」の名画を挙げて見ます。
<ヒエロニムス・ボス「聖アントニウスの誘惑」>
<ブリューゲル「聖アントニウスの誘惑」>
<マルティン・ショーンガウアー「聖アントニウスの誘惑」>
<マティアス・グリューネワルト「聖アントニウスの誘惑」>
<マックス・エルンスト「聖アントニウスの誘惑」>
<サルバドール・ダリ「聖アントニウスの誘惑」>
う~ん、正に魑魅魍魎、百鬼夜行の世界だ!
<ギュスーヴ・ドレ~ダンテ「神曲・地獄編」>
フィレンツエ生まれの詩人・哲学者・政治家だったダンテ・アリギエーリ(1265~1321)は、代表作である叙事詩「神曲」(1321年完成)で著名です。
<「神曲」のあらすじじ~ウィキペディアより転載>
「ユリウス暦1300年の聖金曜日(復活祭前の金曜日)、暗い森の中に迷い込んだダンテは、そこで古代ローマの詩人ウェルギリウスと出会い、彼に導かれて地獄、煉獄を遍歴して回る。煉獄の山頂でウェルギリウスと別れたダンテは、そこで再会した永遠の淑女ベアトリーチェの導きで天界へと昇天し、各遊星の天を巡って至高天(エンピレオ)へと昇りつめ、見神の域に達する」
1861年~1868年にかけて、フランスの挿絵画家・ギュスターヴ・ドレは140点近くの「神曲」の木版画の挿絵を描きました。今日ではオリジナルの「神曲」よりも、ドレの挿絵のほうが遥かに有名になっています。
「地獄編」、「天国編」、「天国編」とありますが、何と云っても「地獄編」の迫力は圧倒的なのです!
<ビアズリーの「サロメ」>
サロメは「新約聖書」に登場する女性、イエス・キリストが布教を始めた頃のイスラエルの王であった「ヘロデ・アンティパス」の姪、義父ヘロデ・アンティパスの愛人となり、酒宴の席で踊った褒美に、イエス・キリストを洗礼した「洗礼者ヨハネ」の首を所望したというエピソードがある少女(?)です。
<リヒャルト・シュトラウス・楽劇「サロメ」より「7つのヴェールの踊り」>
https://www.youtube.com/watch?v=wlU13Y7Oe9o
上掲のビアズリーのイラストは、1893年に初演されたオスカー・ワイルドの戯曲「サロメ」の挿絵です。
サロメに関する絵画は多数ありますが、以下に有名な「サロメ」の絵画をもう2つ挙げます。
<ルーカス・クラーナハ「洗礼者ヨハネの首を持つサロメ」>
<ギュスターヴ・モロー「サロメ」>
女性が男性の首を斬るという話で、もう一つ有名なのは旧約聖書外典の一つ「ユディト記」に登場するユダヤ人の若い女性「ユディト」です。「ユディト」をテーマにした絵画も多数存在しますが、以下に代表的な2点を挙げます。
<カラバッジョ「ホロフェルネスの首を斬るユディト」>
<ルーカス・クラーナハ「ユディト」>
<第3章「異界と幻視」>
<エドヴァルト・ムンク「死と乙女」>
「叫び」で有名なノルウェー出身の画家エドヴァルト・ムンクは「怖い絵」の巨匠ですね。今回展示された「死と乙女」は鈍感なリュウちゃんはあまり怖くないのですが、以下にリュウちゃんが「怖い!」と感じているムンクの代表作を1つ挙げます。
<ムンク「思春期」>
<第5章「孤高の風景」>
<アルノルト・ベックリン「死の島」>
今回展示されているのはマックス・クリンガーによる模写ですが、ここではオリジナルのベックリンの絵を挙げます。この絵はリュウちゃんも以前から「怖い」と思っていました。
19世紀から20世紀にかけて活躍したロシアの大作曲家、セルゲイ・ラフマニノフは、この絵に触発されて暗い交響詩を作曲しました。
う~ん、この音楽は暗過ぎる!
<ラフマニノフ;交響詩「死の島」>
https://www.youtube.com/watch?v=-6HwU3QQzmw
<第6章「歴史」>
再掲<ポール・ドラローシュ「レディ・ジェーン・グレイの処刑」>
いよいよ最終章の<第6章「歴史」>です、ここにお目当ての「レディ・ジェーン・グレイの処刑」が展示されています。
少し長くなりますが、今回の「怖い絵」展のプロデューサーである中野京子氏の説明文を以下に紹介します。
「イングランドの歴代女王といえばメアリ1世、エリザベス1世、アン、ヴィクトリア、エリザベス2世(現女王)、の6人とされているが、正確にはもうひとりいる。メアリ1世よりも先に即位し、イングランド最初の女王を宣言したジェーン・グレイだ。
但し、玉座に座ったのは僅か9日間、追われて半年後に処刑されてしまう。
まだ16歳と4か月、花の盛りだった。シェイクスピアの生まれる10年前、1554年のことである。
以来、ジェーンの処刑シーンは数多く描かれてきたが、300年後のロマン主義吹き荒れる中、フランス人画家ドラローシュが異国の歴史画として描いたこの絵が一番の人気作となっている。
ロンドン留学中の夏目漱石も魅了され、小説「倫敦塔」に反映されたことは広く知られているとおり。
極めて演劇的な、計算され尽くされた画面、
左に巨大な円柱があり、
宮殿の一角とおぼしき場所で処刑が行われようとしている。
その円柱にしがみつき、背中を見せて泣く侍女と、失神しかける侍女、
後者の膝に置かれたマントと宝石類は、直前までジェーンが身に付けていたものだ。斬首の際、邪魔になるので脱がなければならなかった。
若き元女王は新しい結婚指輪だけを嵌め、サテンの艶やかな純白ドレスは花嫁衣裳のようでもあり、自己の潔白を主張するかのようでもある。
目隠しをされたため、首を置く台のありかが判らず手探りするのを中年の司祭が包み込むように導こうとしている。
台には鉄輪が嵌められており、動かないように鎖で床に固定されている。
ジェーンの身分を考慮した房つきの豪華なクッションが足元にあり、ここに腹這いとなって首を差し出すのだ。
床には黒い布が敷かれ、その上に血をを吸うための藁が敷かれてある。
若々しく、白い肌のこの少女は、一瞬後には血まみれの首無し死体となって長々と横たわっているのだ。
そこまで想像させて、この残酷な絵は美しく戦慄的である」
この絵の前に立ったリュウちゃん、上記、中野京子氏の解説文を一瞬のうちに感じ、暫く凍りついてしまいました、
この絵はリュウちゃんの生涯で
2番目に怖い絵になったのだ!
リュウちゃんの生涯で一番怖いと思った絵は、
勿論、レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」なのです。
皆様の「一番怖い絵」は何でしょうか?
兵庫県立美術館の「怖い絵」展は9月18日で終了しますが、10月7
日から12月17日まで、東京の「上野の森美術館」で同じ展覧会が開催される予定です。
<上野の森美術館「怖い絵」展の御案内>
http://www.ueno-mori.org/exhibitions/article.cgi?id=226
東京藝大の大学院に通われているブログ友の「踊るひつじ」さん、
是非、この展覧会を観に行って下さいね!