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『フィンランド公共図書館』吉田右子・小泉公乃・坂田ヘントネン亜希 新評論
「図書館」というものに対するイメージをすっかり破壊されてしまった。以前、『ニューヨーク公共図書館』という映画を見てあんまりびっくりしたので、二度見たことを思い出した。 ある新聞に、「図書館職員4分の3非正規」と書いてある。多摩地域の市立図書館の非正規職員は勤務時間は週4日、16時間までに限定。月収7万円。全国の図書館数は2003年の2759か所から22年の3305か所と増加している。しかし、正規職員の割合は53%から22%に減少。 学校図書館では、私の体験でいえば、その大半が、兼務。理科の実習助手との兼務、国語の教諭との兼務。その大半の人は司書の資格も持っていない。図書の貸し出しと返却の仕事。 つまりは、「貸本屋」と同じ。 だから、この本を読んで、日本の現状とのギャップに驚いた。 これは、「ニューヨーク公共図書館」と共通しているのだが、多言語の利用者に対応し、どのような生活状態にある人に対しても平等に対応していること。もちろん、酔っぱらっている人、薬物使用者、「ちょっと元気すぎる若者」たちへの対応には警察の手を借りねばならないこともあるようではあるが・・。 驚くことには、「本の盗難防止装置」がないこと。著者たちも、「なぜないんですか?」と訊ねるのだが、訊ねられる方が、「えっ、なぜそんなものが必要なんですか?」という「そんなこと当たり前でしょう」という態度。 さすがに、「ゲーム・ソフト」は、盗難が相次いだために、チェックが入った様だ。えっ、「ゲームソフト」までおいてあるの?となるのだが、経済的に苦しくてゲームソフトを買ってもらえない子のために、おいてある。ただ、館長の考え方として「うちにはいらない」という少数派図書館もある。 本を丸々コピーしちゃったという人もいたそうだが、コピーは無料。 市民の対話が行えるようなスペースも充実している。3Dプリンターを使ってものを造ったりできるスペースも。パソコンを借り出して、仕事をしたり勉強したりすることもできる。 閉館後も、利用者は、図書館カードを使って中に入り、「セルフサービス図書館規則」を守りさえすれば自由にスペースを利用できる。これも驚き。規則はかなり細かいが、常識的なラインだ。 図書館で結婚式を挙げるカップルもいる。開館中に式を挙げると無料。閉館後に挙げると、実費のみ支払い。 P16からP27まで、20条にわたる「図書館法」が掲載されている。 第二条 法律の目的 のみ以下に紹介する。
本法の目的は、以下を推進することである。 ①教養と文化への平等な機会。 ②情報へのアクセスとその利用。 ③読書文化および多様なリテラシー。 ④生涯学習及び能力開発の機会。 ⑤アクティブ・シティズンシップ、民主主義、言論の自由。 これらの目標実現のための基点は、公共性、多元性、文化的多様性である。
様々なニーズを持った人たちが図書館にやってくる。「マウスの使い方が分からない」「スマホの初期設定がしたい」「オンラインバンキングの利用法を知りたい」等々。 なので、フィンランドの図書館には、様々な分野を経験してきた人たちが勤務しているという。 全10章の中で、それぞれに個性的な図書館が紹介されている。
静寂と元気良さとのバランスをどうとるか。社会の中で居場所を失いそうになっている人(主として若者)へのカウンセリング。図書館職員をどう養成するか。
こうしてみると、公共図書館の在り方というものは、そのまま「国の在り方」に通じているようだ。貧寒とした国の施策、その中で、全力を尽くして利用者のために奮闘している日本の図書館職員さんには頭が下がる。 日本は危ない、と感じた本だった。 『オランダ公共図書館』も市立図書館に予約をした。楽しみであるとともに、彼我の差を痛感しそうだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2023.08.08 15:57:46
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