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カテゴリ:歴史・社会
4月2日の日経夕刊の「名作のある風景」で吉田満「戦艦大和ノ最後」が建造地である広島県・呉の写真と共に紹介されていました。
「戦艦大和ノ最後」については、私などが浅薄な感想を綴るより、読んでいない方にはとにかく原作をまず読んで欲しいと思います。日系二世軍人の悲劇、仕官の苦悩と誇り、戦争という度し難い極限状況、交錯する様々な死生観、最高軍艦の生々しい末路等々、一言ではとても言い表せない深く多面的な内容を含むためですが、何よりも、自ら原典に当たることが一番大事だと考えるからです。優れた解説が作品の理解を深めることはありますが、やはり「他人」の感想に過ぎません。ただ原作も、左寄りのフィルターがかかった解説が掲載されている講談社文芸文庫ではなく、吉田満自身による作品が書かれた経緯を綴った手記が載っている「角川文庫」版を読んで欲しいです。講談社版は原作を捻じ曲げた解説が著者に失礼だと思います。 私は、この作品では、吉川英治という人物の大きさを感じました。疎開先で戦艦大和沈没・敗戦の衝撃から依然自らを見失っていた吉田に、父親が知り合いの吉川英治を訪ねることを勧めます。吉川は、訪ねて来た吉田が躊躇しつつ語り始めた戦争の話を姿勢を正して全身で聞きます。一切批評することなく、一言も口を挟むことなく、何日もただただ聞き続けます。そして吉田が自らの思いを語り終わった時、吉川は初めて口を開きます。「君はこの体験を書かなければならない」と。それは自らに対する務めであると同時に日本人に対する務めであると。 私自身は全作品を読んでいるわけではないので、作家としての吉川英治について語ることはできません。でも「人間を評価する姿勢」は他の人ではできない素晴らしさがあると思います。 10年くらい前でしょうか、日本橋・高島屋で「魯山人展」を見たのですが、古い魯山人展のパンフレットも展示してあり、吉川英治による紹介のページが出ていました。ご存知の通り、天才料理人にして天才書家・陶芸家である北大路魯山人は、自ら主催した料理倶楽部も追われるなど人間関係での問題が絶えなかった人物ですが、紹介の文章の中で吉川は語ります-「私はこの人(魯山人)の人物も評判もよく知らない。私が知っているのは、この人の作品がこの上なく素晴らしい、ということだけである。」 偏見を持つことなく、誠実に人(作品)を受け止める姿勢が吉田の心を開かせ、思いを語らせ、作品に結実できたのではないかと思います。 呉の旅の話を書こうと思いましたが、やはり「戦艦大和ノ最期」について語り始めると長くなりますね(笑)。原典を読むことと同時に、現地を自分の足で訪ねることも大事だと私は思っており、呉、そして江田島に赴いたのでした。その話はまた別の機会に書きたいと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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