「僕らがポルシェを愛する訳」第一回
911は2台乗り継いだ。20代の頃から街中を走り抜けてゆく911の”おしり”に魅せられていた。中古のBMWではとうとう満足出来ず、よせばいいのに無理して白い77年911Sをローンで買った。77年製の911というのは排ガス規制のあおりをモロに受け、変てこな装置で無理やりパワーを落としているので、壊れるというのが定説だった。当たっていた。エンジンが暖まってくると、カチカチ山のタヌキの様にマフラーから白煙を吹いた。オイルはだだ漏れであった。オーバーホールには150万程かかるという。とても払える金額ではなかった。それでもだましだまし乗っていた。高速を走り、3速あたりにシフトアップしてアクセルを踏み込んだときの、”クゥオーン”というエンジンの音がたまらなかった。運転席に坐り、キイを捻りエンジンを始動させてオイルが暖まる(911は油冷エンジン)のを待つと、ゆっくりと油温メータが動き出す。アクセルを煽ると、一気にレッドゾーン手前まで吹き上がり、離すと小石を落とした様にストンとタコメーターの針が落ちる。これこそが911の醍醐味である。1速に入れクラッチはつながる手前まで離してから、ゆっくりとアクセルを踏み込みながらつなぐ。不調な911ではあったが、その魅力の半分以上は味わえたと思う。その思いが3年後、漆黒の964ティプトロニックを買うことにつながっていく。ある本に書かれていた徳大寺有恒氏の言葉が大好きだ。「君が911に乗っていて、急いでいる。あそこに割りこみたいな、と思ったとしよう。そう思った瞬間、911はそこにいるんだ。気がつくと、もうそこにいる。そういうクルマなのさ。」参考文献「僕らがポルシェを愛する理由」山川健一(東京書籍)読んだらぽちっとしてね。