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カテゴリ:はてな?
散歩くんは、今日仕事がお休みで昼下がりはうたた寝などしていたのだが、急に思い立って、散歩に出かけることにした。なにしろ「散歩くん」だからね。
だから、事件やときめく恋が始まるわけではなく、ちょっと寒すぎる空気を感じながら、行く当ても無く歩いていた。 日も少し傾き始めていたので、自分の影が冬でお休み中の田んぼに映っていたので、影遊びをした。 影は、間違えもせず散歩くんのおかしなポーズを上手に真似て少しも遅れない。影くんは完ぺき主義なのだ。あまりの完璧さに散歩くん、ちょっとは間違えてよと思いつつ飽きたので散歩を続ける。 ふと、歩いているとまぶしい視線を感じた。散歩くんの左からだ。 視線を送ってきたのは、線路くん。夕日を上手く利用して散歩くんに光信号を送ってくる。「もうすぐ汽車が来るよ。」と、ちょっと身震いしながら線路くんが言うと本当に、散歩くんの前方から汽車がゆっくりとやってきた。汽車くんは気難しげな表情で散歩くんの脇を足音だけを残して黙って過ぎていった。「どうしてあんなに機嫌が悪いんだろう?」。すると線路くんが言った。「だってわき腹にいろんな宣伝シールを貼られてとても嫌がってたからね」「ふーん」散歩くんは今通り過ぎて言った汽車くんのわき腹に貼られた沢山の宣伝シールを思い出してみた。確かにあれじゃ気分悪いなと。 しばらく歩いていくと、なにやら話し声。「冬は柵の中から出してくれないのね」「いい加減飽きたよぼく」「だって仕方が無いじゃない」「田んぼがお休みじゃ僕らの出番は無いよ」などなど・・・。 鳥達は散歩くんが近づいて行くと話しをぴたっとやめて知らんぷり。まあ、別に話しかけるつもりも無かったので横目に見て通り過ぎた。するとさっきと同じように「冬は柵の中から出してくれないのね」「いい加減飽きたよぼく」「だって仕方が無いじゃない」「田んぼがお休みじゃ僕らの出番は無いよ」と同じ話を始めだした。散歩くんは思った、きっと冬の間ずっとああして話しているんだろうなと。 しばらく歩くと今度は踏み切り信号くんがだまって冷たい風に吹かれていた。 目をつぶって眠っているようだ。起こしちゃ悪いと思って散歩くんは静かに踏み切りを渡った。 あたりは段々夕暮れ近くなってきたので散歩くんは自分の家の方角にコースをとった。手先が寒さでしびれてきたのでポケットに手を突っ込んで歩いた。 道端では夏にはあんなに威勢良くしゃべり続けた草達が、ひっそりと寝ていた。きっと役目を終えて次の世代に命をバトンタッチしたのだろう。 ふと、上を向くと、どこからか声が・・・「早くおうちへお帰り、電気を送ってあげるから」そういうと、風に少しだけ「ぴゅう」と唸り声をあげた。電線くんが、電柱くんに支えられて身震いしていた。「うん」散歩くんは足をはやめて帰路についた。 おしまい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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