2530222 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

320life

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

プロフィール

ノマ@320life

ノマ@320life

サイド自由欄

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー

カテゴリ

2022.11.25
XML
テーマ:読書(8491)

本のタイトル・作者



小さいわたし (一般書 389) [ 益田 ミリ ]

本の目次・あらすじ


小学校にあがったばかりの「わたし」には、毎日いろんなことが起こる。
大人になれば忘れてしまう世界の秘密。
この世の終わりのように感じていたちっぽけな不安。
気付かれないまま隠されていたたくさんの大事な意味。
世界が不思議に満ち満ちていたころの魔法。

引用


こども時代は本当に短いものです。
長い人生のほんのひととき。
なのにプリンのカラメルソースみたいに他の部分とはちがう特別な存在です。ひとがいきなりおとなに生まれるのだとしたら味気ないにちがいありません。


感想


2022年305冊目
★★★

以前、レイ・ブラッドベリの『たんぽぽのお酒』を読んだときに思った。
この人は、子どもの頃のあの目で、世界を見ている人だ。

胸を掻きむしりたくなるような、この世の美しさ。
大きな力のもとに置かれ、途方に暮れていた幼子。
あの頃のようにまた世界を見ることが出来たなら。
―――永遠に、世界に馴染めない異星人のように。

もう叶わない。戻れない。
失われ、損なわれ、汚され、そして適応した。
朝の通勤ラッシュ。
満員電車から吐き出されるスーツの群れ。
何も考えずに駅の階段を上る。
人の流れに沿って通路を進む。

俯いてスマホを見ている人。
イヤホンで耳を塞いでいる人。
無感情に無表情に進んでいく人波。

映画の「ユニコ」で見た光景みたいだ、と私は思う。
人型の木切れになった大人たちは、自ら部品となるために連なって移動する。
整然とした隊列。
互いに組み合わさって出来る魔法使いの城。

ふと顔を上げれば空に月が浮かんでいる。
ぽっかりと丸く、夜を超えてきた白。
私たちは自転している。
そういえば人込みは冬の装いだ。
黒と茶色と、稀に別な色のコートが目立つ。
私たちは公転している。

ねえ!と、私は声を上げたくなる。

けれど言うことは何もないのだ。
私はただ口を噤む。
隊列を乱さずに進む。
良識ある大人の一人として。

小さいわたしは、不思議に思っていた。
会社へ向かう大人たちは、なぜ暗い顔をして歩いているのだろうと。
ひとりも笑わずに。ひとりも空を見上げずに。ひとりも地面にしゃがみ込まずに。

知っている気になって、立ち止まらなくなった。
珍しいものではないと、気にも留めなくなった。

大人は滅多なことでは泣かないし、笑わない。
それは感性の鈍化、感度の劣化なのだろうか。

たまに、思う。
文字を知らなかった頃の私は、世界をどんな風に見ていたのだろう。
あらゆる知識を詰め込む前の私には、この世界はどう見えていたんだろう。
思い出せないくらい遠い日々。

本は、その時のことを思い出させてくれる。
視力を無理やり矯正する、検査の時に掛ける不格好な眼鏡みたい。
私はそれを付けて、驚く。
ああ、そうだった。そうだったんだ。こう見えていたんだよ。

この本は、小学1年生の女の子の、日記のような日常。
益田さんの自伝的な要素が多分に入っているのに、何故か私はそれを見たことがあるように思う。
私がそこにいて、その体験をしたかのように感じる。

ひとりぼっちのひらがな。ト音記号。頭の中のおしゃべり。ご飯のゆげ。
ちいさいひとのせかい。

私は電車の中で本を読む。
最寄り駅について、私は本をぱたんと閉じる。
ペルシャ絨毯の栞を挟み込み、革のカバーに守られて、紙の上にあるひとつの世界が収束する。

でも私にはまだ少し、魔法がかかっていて。
物語の残滓はきらきらと、ティンカーベルの金色の粉みたいに、私の周りに振り撒かれる。

私の目は、はじめて見たようにすべてをあたらしく捉える。
ちいさな私の世界が始終不可思議に溢れていた頃のように。

これまでの関連レビュー


わたしを支えるもの すーちゃんの人生 [ 益田ミリ ]
今日の人生2 世界がどんなに変わっても [ 益田ミリ ]
一度だけ [ 益田ミリ ]


ランキングに参加しています。
「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです。
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2022.12.03 23:16:32
コメント(0) | コメントを書く
[【読書】エッセイ・コミックエッセイ] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.
X