書名
老人ホテル [ 原田ひ香 ]
引用
昔から、天使は常識知らずを指摘されることに弱い。それをされると身体が震えて動けなくなってしまう。
自分は変なんじゃないか、普通の人と違うんじゃないか、何もわかってないんじゃないか、普通の家と違うんじゃないか……それを感じると動けなくなってしまう。
感想
2023年125冊目
★★★
老人が働くホテルで、ひとりだけ若い女の子が入って……という話かと思ったら違った。
生活保護が打ち切られないよう、就労が難しい理由を作るために妊娠を続けた母。
天使(えんじぇる)は、その七人兄弟の末っ子として生まれた。
子沢山の天使の一家は、「仲良し日村さん一家」としてテレビに取り上げられ、人気コンテンツとして消費されていた。
しかし天使が小学二年生の時に事件が起きテレビ番組は打ち切られ、天使もやがて家を出る。
キャバクラで働き始めた天使は、ある時ビルのオーナー・光子が「お金持ちになる方法」を教えてくれると言ったことを覚えていた。
数年後、偶然オーナーだった彼女を見かけ、跡をつけた天使。
1階に定宿として居住する老人たちが集められたホテルで、光子に近づくため清掃員として働き始める。
内容としては徹底した節約→投資を勧める感じ。
作者がすごく不動産投資推しなんですよねえ。
そこが、前作
・
財布は踊る [ 原田ひ香 ]
と、似たりよったりで、世の中にはいろんなお金の稼ぎ方があるわけだから、どうせ違うテーマで本を書くなら投資の方法も違うものにしたらいいんじゃないのか…と思った。
私は不動産投資に否定的な方なので。
どちらかというと、今回は出産シーンからずーっと撮影されてきた「天使」についての子どものプライバシーの問題とか(親の所属物のようにネット上にアップされ続ける子どもは、成長してから自分の過去を消すことが出来ない)、生活保護の不正受給がメインテーマという感じ。
お母さんが天使の稼いだお金を持っていくくだり、
・
タイム・オブ・デス、デート・オブ・バース [ 窪美澄 ]
と既視感がすごくて、「あー」ってなった。
結局、貧困の連鎖というのは、「お金がないこと」だけではないんだよな…。
そして、それでも親に抗えない子供という存在。
天使も、みかげも、誰か別の存在が、「ちゃんとした大人」が味方してくれて、サポートしてくれて、それを断ち切れた。
しかしこの小説、最後はものすごく後味が悪いところで終わる。
「えー、そうなっちゃうんだ…」っていう。
羅生門で言うと、ニキビ気にしなくなったっていう。
善と悪のはざまにあったものが、良い人たちとの出会いで善に向いていたはずなのに、結局お金の魔力によって悪に傾いてしまう。
その時彼女をもとに戻してくれるものは、いない。