書名
ニッポンのアンティークしおり [ 豊嶋 利雄 ]
目次
1章 企業宣伝
2章 プロパガンダ
3章 広報・告知・啓蒙
4章 抒情画
5章 子供時代とスクールライフ
6章 メディアと金融・保険
感想
2023年146冊目
★★★
明治・大正・昭和の風俗、世相、流行が反映されたしおり、466枚が紹介された一冊。
「へえ〜!ほお〜!」と思いながら読んだ。
すべてのしおりに発行時期、デザイン者、メーカー、サイズ、裏面、備考の注釈があり、これはもうすんごい労力で作られた本。
テレビもネットもなかった時代、宣伝として用いられた「しおり」。
日本では明治20年頃から宣伝媒体として使用され、昭和初期にかけて様々な宣伝活動に「しおり」が使われたのだそうだ。
今でもあるメーカーの商品、ペコちゃんやグリコ、カルピス。
著者の解説文にはメーカーの創業話も入っていて面白かった。
セーラー万年筆は
軍港都市・呉にあり、将来は自らの製品を船によって輸出し、海外に覇を唱えたいという念願と、ひとりの提督より多くの「水平(セーラー)」が大切だという民主主義的思想を盛り込み商標を「セーラー」と命名。
なんだって!はじめて知った!
ミズノ(美津濃)が文房具を作っていたというのも知らなかった。
しおりの裏面にはやたらと時間割表が多い。
ものを買うのは大人だろうに、小説を読むような大人には時間割表などいらぬだろう。
なんでなんだろ?と思っていたら、子どもに対するプロバガンダが、戦局悪化と反比例して活発化していったからなのだそうだ。
しおりも年代順にこう並べてあると、戦争がいかにして日常に入り込み、そして人々の認識を変えていったのかがよく分かる。
しおりを通してみる歴史。
教科書で戦争を学ぶより、こういったものを眺めるほうが、私は戦争を身近に感じる。
ふだん自分が手にしているものと、同じもの。
それが戦争のさなかにも、存在した。
戦争を時系列で習っても、それは何というか、「出来事」のポツポツとした点を繋いだ線のように見える。
けれどしおりは滑らかな、点のない線だ。
それは日常という名前の、何月何日に起こった「〇〇」と名前がつかない毎日の連続。
戦地の人が持っていたしおり。
その昔、下鴨納涼古本市に出かけていった際、古本ではないものもたくさん売られていることに驚いた。
絵葉書に、それこそお菓子の包み紙だって。
そういったものを集めていた人がいて、またそれを集めている人がいて。
絵葉書なんかは、使用済みで、私信が書いてあったりするのだ。
誰かの人生がそこにある。
見知らぬ誰かの目に留まる。
忘れないで、と言われているような気がする。
点ではないそれを、糸のように今に繋いで。
私がそこにいたことを。