書名
君のクイズ [ 小川哲 ]
引用
クイズに答えているとき、自分という金網を使って、世界をすくいあげているような気分になることがある。僕たちが生きるということは、金網を大きく、目を細かくしていくことだ。今まで気づかなかった世界の豊かさに気がつくようになり、僕たちは戦慄する。戦慄の数が、クイズの強さになる。
感想
2023年166冊目
★★★
『地図と拳』(未読)で、第168回直木賞を受賞された小川哲さんの本。
タイトルのクイズというのは象徴的な「君の謎」みたいな意味だと思っていて、男女間の失踪だとか虚偽系ミステリかと想定して読んだら違った。
ほんまもんのクイズやった。
スポーツのような生のエンターテイメントを目指す、生放送のクイズ番組『Q-1グランプリ』。
賞金1000万円が懸かった決勝戦で、会社員のクイズプレーヤー三島は敗北する。
両者拮抗するなか、最後の一問で勝敗が決するという時。
対戦相手の本庄は、問題が一文字も読まれないなかで解答し、優勝した。
これはやらせなのか、それとも?
三島は、本庄の過去を探ることで、最終問題の謎を解こうとする。
日本で1番低い山が天保山じゃなくなっていたなんて知らなかった。
東日本大震災により、宮城県の日和山が1番に。
クイズに答える人の頭の中ってそういう思考回路になってるんだね!というのが分かって面白かった。
文中に「世界の可能性を剪定する」という表現が出てくる。
無限にある回答の選択肢の中から、いち早く正解を見つけること。
それには純粋な知識だけではなく、出題者の意図の理解、人間の心理学的性質なども考慮する。
はああ、たかがクイズと思っていたけれど、奥が深い。
全体的に映画「スラムドッグ・ミリオネア」を彷彿とさせる感じ。
クイズに正解するということは、その経験が、記憶があるということ。
人生まるごとをかけた、生き方の解答。
主人公は、クイズの正解音が「ピンポン」と鳴る瞬間が好きだという。
それは、問題に正解したというだけではない。
これまでの人生を肯定する音でもあるのだ。
クイズに正解すること。
自分がこれまで生きてきた証を見せること。
なぜ決勝戦で、対戦相手の本庄は、一文字も読まれない問題に、解答することができたのか?
本庄の過去を知った主人公は、その理由を本人に確かめる。
そして、納得する。
けれど。
ラストは後味が悪くて私は好きじゃない感じ。
そこは本庄にきれいな存在でいてほしかったというか。
謎解き終了、証明完了のあとの一捻りがそれかー、というか。
裏切られたようなザラついた感触が残った。
もうちょっと違う方向の「本当の目的(大義)」みたいなものがあれば良かったんだけどな。
新しい仕事(業務)に就くと、自分が知らなかっただけで、世界はこんな仕組みになっていたのかと驚くことがある。
そうして思う。
私が知っていることなんて、本当に世界の隅っこの隅っこの、マイクロな、ナノなことなんだろうな。
そしてそんなものが無数に存在し、世界を形作り、日々を動かしている。
無知に気付き、それゆえに世界がいかに豊かであるか気づく、戦慄。
クイズプレーヤーっていうのは、それに取り憑かれた人なのかもしれない。
世界は途方もない。
そのことを少しでも、把握しておきたいという欲望。
生きていることは、君のクイズだ。
全身全霊、そのすべてで解答する問題。
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