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テーマ:読書(8489)
カテゴリ:【読書】本・読書・書店
書名 モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語 (文春文庫) [ 内田 洋子 ] 目次 それはヴェネツィアの古書店から始まった 海の神、山の神 ここはいったいどこなのだ 石の声 貧しさのおかげ 行け、我が想いへ 中世は輝いていたのか! ゆっくり急げ 夏のない年 ナポレオンと文化の密売人 新世界に旧世界を伝えて ヴェネチアの行商人たち 五人組が時代を開く 町と本と露天商賞と ページに挟まれた物語 窓の向こうに 感想 2023年174冊目 ★★★ いわた書店「1万円選書」で選んでいただいた本。 (2022.02.06「2022年1月に読んだ本まとめ/これから読みたい本」) かつ、2023.01.03「2023年の課題図書48冊」の1冊。 選書カルテの「これまでに読まれた本で印象に残っている本BEST20」に 『戦場の秘密図書館 シリアに残された希望』 『麦本三歩の好きなもの』 『ブックセラーズ・ダイアリー』 の「本」に関する3冊を挙げたから選んでいただいたのかな。 表紙がこう、厳か〜な感じだし、表紙をめくったら扉に中世っぽい絵があるし、「これは…なんかこう、中世の…キリスト教が云々の歴史書系…?」と及び腰になっていました。 歴史苦手。 でも、NHKラジオ「高橋源一郎の飛ぶ教室」でも、「「読む」ことを支えた村の行商人の歴史」(2023年4月21日放送)として紹介されていて、概要を聴くと全くそんな話じゃなかったの。 ハードルが低くなったので読んでみた。 ちなみに「旅する」とタイトルに入っているから、名古屋旅行に持っていきました。 著者は、 内田洋子(ウチダヨウコ) 物語は、著者が移り住んだヴェネツィアから始まる。 ヴェネツィア関連の本を扱う古書店。 代々ここに店を構えてきたのかと尋ねる著者に、店主は答える。 まだここは息子で4代目、もとはトスカーナ州のモンテレッジォの出身である。 特産のない村。 ほかの農地へ出稼ぎに行っていた男たちは、景気が悪くなって働き口がなくなると、本を売るようになった。 毎年に開催される夏祭りで、本の収穫祭を行うという村。 どういうこと? 何一つ情報が得られないなか、著者は村を紹介するサイトを見つける。 緯度と経度と標高、そして個人の名前に電話番号。 矢も盾もたまらず連絡を取り付けた著者は、村の有志代表たちに連れられ、村を訪れる。 そこからどんどん紐解かれていく村の歴史。 それは、印刷と本の歴史でもあった。 物語が来た道。 15世紀にグーテンベルクが登場し、活版印刷が始まった。 大きくて重い判型に、荘厳な装飾。文字は仰々しいゴシック体で、高価。 本は、「机に置いて恐る恐るページを繰る」特権階級のものだった。 「本の恩人」こと、イタリア人のアルド・マヌツィオは、それらを全て逆にした本を作る。 小さく、薄く、軽く、簡素な装丁にし価格を下げ、当時の人気書体を調査して流行写本家を雇い、美しいオリジナル書体を創り出した。出版社ブランドの始まりであり、著作権もここから生まれていく。 イタリックという書体はここから始まったのか。知らなかった。 いつでもどこでも、読書ができる。 アルド・マヌツィオの出版社の書票の写真が載っている。 碇に勢いよく絡むイルカ。これは「ゆっくり急げ」という意味なのだという。 かっこいい。 今、私が通勤中に本が読めるのも、アルドさんのおかげだったんだなあ。 はじめは、聖人の祈祷入り絵札と生活暦。 そして廉価になって広く庶民にも流通するようになった本を、版元から売れ残りやワケアリの状態で集め、モンテレッジォの男たちは売り歩く。 本の行商人。 自分たちの強みは、毛細血管のようにイタリアの隅々まで本を届けに行く胆力と脚力である。本は、世の中の酸素だ。皆で手分けして、漏れなく本を売り歩こう。 戦時下には禁書を隠して売り歩いた村人たちも、近代化により村を離れていく。 モンテレッジォの村の人口は、2018年当時わずか32人。 4人が90代だというから、村の消滅も目前に迫っている。 1952年に本への感謝祭として開催された「本屋週間」。 それにあわせてモンテレッジォへの表敬訪問が行われ、その翌年、「露天商賞」(イタリアの本屋たちが選出する文学賞)が創設され、今も毎年受賞作が選出されている。 そうして村の名前は、刻まれる。 「露天商賞」の受賞作は、 少なくとも二千部以上は実行委員会が買い上げ、そのうち半分の部数は刑務所や病院、生活困窮者の支援所などの図書室へ寄贈すること。残り半分は、全国の露天商たちに配本して売り広めてもらうこと。 と規範に掲げられている。 これぞモンテレッジォの行商人の心意気。 イタリアでも、本を読む人は減っている。 紙の本を年に1冊も読まなかった人は、2016年の調査で57.8%。 しかし新型コロナでロックダウンが行われた時、イタリアは「本は大切な友達」として書店を閉めなかったのだという。 友を失うわけにはいかぬ。 日本だって同じだ。 本を読む人は減っていく。 当たり前だった「本」がなぜ必要なのか、改めて問われているような状態。 私は、モンテレッジォの人々が自分たちを毛細血管にたとえ、「本は、世の中の酸素だ。」と言ったことを思い出す。 酸素がなくなったあとで、気付いても遅い。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.08.09 12:17:59
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