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2023.09.03
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テーマ:読書(8489)

書名



地図と拳 [ 小川 哲 ]

感想


分厚かった…。

というのがまず印象。
640p。
京極夏彦の「レンガ本」を思い出す分厚さ。しかも単行本。ハードカバー。
単行本としては限界に近い厚さなのではないか。
本が背表紙に圧着される「花布」が「ひいいいい」ってなってる気がした。笑
文庫化されるときは3部作になるんじゃないかしら。
通勤中に一週間くらい持ち歩いていてよい筋トレになったぜ…。

第168回直木賞受賞作ということで読んでみた本。
受賞を契機に読むのって良し悪しだけれど、自分では読まない本のジャンルや、読んだことがない作家さんに出会う機会にもなるから、私はまあ良いのかなと思う。

タイトルから、漠然と
テスカトリポカ [ 佐藤究 ]
みたいな話を想像していた。
違った。いや、雰囲気はすこし似ているのだけれど。暴力表現注意。
これは、地図(都市計画)と、戦争の話だった。
地政学や建築様式についても入っていて、視点が新しい戦争小説。

「建築とは時間です。建築は人間の過去を担保します」


1899年の夏から1955年の春までの「満州」をめぐる物語。
地図もない土地に線を引き、名を付け、資源を把握する。
そして武力と暴力が覆い尽くす。
支配者を変え、街は発展していく。
破壊され尽くし、無に帰すまで。
つながりのある人から人へ、視点を変えて紡がれていく物語。

「『地平線の向こうにも世界があることを知らなかったあなたへ』」


登場人物が多くて、さらに章のなかでも視点が切り替わるので、途中から「…この人誰だっけ」となった。
相関図がほしい。
私の推しキャラは細川。
読者投票をしたら、細川と明男で1位と2位を競うのではないか。

国家とは法であり、為政者であり、国民の総体であり、理想や理念であり、歴史や文化でもあります。ですがどれも抽象的なもので、本来形のないものです。その国家が、唯一形となって現れるのは、地図が記されたときです。


日本は戦争に負ける。
それを早くに理解していた細川は、暗躍した。
外地のあちこちから資材を盗んだ。
なぜならそれらはすべて、無駄になると知っていたから。
いつか来る日のために、再興のために、日本の資源を温存する必要があったから。

「一、撃つときはなるべく敵に近づくな。相手の顔が見えない距離で撃て。二、怖くなったら俺の顔を思い浮かべろ。俺に命令されたから撃つんだと自分に言い聞かせろ。三、一人になるな」


戦い方は人それぞれなのだと、この本を読んでいて思う。
何を信じるか。
何を、正しいとするか。
正しくないと知っていて、思っていて、そのとき、何をするか。

「怖いよ」
明男はあっさりとそううなずいた。その瞬間、慶子は「怖かったのだ」と確信した。高木もきっと、怖かったはずだ。だからこそ、彼は勇敢に死んでいったのだ。


地図がないところから始まった旅は、いくつもの地図を作り、破棄し、最後にもとの荒野に戻る。
原寸大で描かれたかつての村が、紙の上に蘇り、大地を覆う。
理想郷を描こうとしたかつての地図。
それは作り物めいて美しく、非現実的で映画のラストシーンのようだと思った。

著者は、

小川哲(オガワサトシ)
1986年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年に『ユートロニカのこちら側』で第三回ハヤカワSFコンテスト“大賞”を受賞しデビュー。『ゲームの王国』(2017年)が第三八回日本SF大賞、第三一回山本周五郎賞を受賞


ということで私と同い年だった。
この本を読んでいて、本当に自分の無知について思う。
社会の教科書で、満州についてどれだけ触れられていただろう。

春、残業が終わって帰宅し、たまたまNHKの「スワイプ人物伝「満州帝国 実験国家の夢と幻」」(2023年4月10日)を見たことを思い出した。
ラストエンペラー・溥儀。
自身が統治のための傀儡であることを知らなかった、ということを私は知らなかった。
そして庭師となって生涯を終えたことも。

最近、戦争を題材にした作品が増えているように感じる。
それがいろいろな受賞作にもなるくらい。
移動祝祭日 [ アーネスト・ヘミングウェイ ]
でヘミングウェイが、ある戦争を知らない小説家が書いた作品を「紙の上だけで書いた戦争小説」と嘲笑っていた。
今、わたしたちが書いて、読んでいるものは、すべてそれだ。

それは今の不安定な世界情勢があるからかもしれないし、もう一方には「この閉塞感を打破したい」という意識があるのではないか、と思う。
どこかで見かけた、「この現状を変えるのに戦争でも起きないかな」と言っている日本の若者の声。

いやいやもう、こんなアホなこと二度とせんとこうや。めっちゃ無駄やし。
という綺麗事を、なるべく多くの人が共有して信じることが出来るように。
絵空事でも、過去をもとに物語は綴られ続かなくては。

どうしてこんなことになったんだろう、と思いながら立ち止まることも出来なくなるその前に。

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最終更新日  2023.10.06 23:50:08
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