もうひとつ 2009年の高知フィルム・マラソン
何を今更ですが、昨年フィルムマラソンで見た作品について、アップしていなかったので。 年が変わってしまいましたが、今年もいい映画が、高知県民に届けられる事を強く希望します。『キネマの天地』1986年封切り。 東京のマリオンあたりで観たんじゃなかったかな。 いつも、舞台を覗きに来てくださった渥美さんや、共演させていただいた関さんが出ているからと、先輩と観に行き、大笑いした思いがある。 渥美さんが亡くなったときには、すごくしょげていた関さん。「俺もそんなに長くないから、すぐに行くから、」って。糖尿病が進んでて、舞台が暗くなるとほとんど見えない体で、浅草から喜劇を消さない為にがんばってた。 関さんも、渥美さんのところに行っちゃった。 映画は、文句なく楽しめた。素晴らしい四人の脚本家による名作。 今回も、たいちゃあ笑わせてもらいました。三十石舟を戴いたクズ屋との掛け合い、娘への演技指導。 でも一番笑ったのは「マルクスを読んでる」と特高が云った時かな。 そして渥美さんの、芝居の上手さを再確認。この年は日本アカデミー賞の、最優秀主演男優を獲ると思ってましたが、だめだったな。あの頃はいつも、健さんや拳さんにもっていかれてた。最高に上手かったなあ。 僕の中では、邦画の『雨に唄えば』的な位置付け。 今回上映された健さん映画2本。どちらも、電話をかける高倉健です。2本とも公開時には観てなくて、大分経って名画座のようなところで観た。 僕は、昔からヤクザ映画(まぁ、健さんや、鶴田浩二、藤純子)とか、暴力団映画(まぁ、菅原文太、松方弘樹、ピラニア軍団)に食指が動かない方でして、ほとんど観た事がなかった。『新幹線大爆破』1975年封切り。佐藤純弥監督作品。 この健さんはごく普通の会社経営者。そんな男の社会への復讐劇。 今見ても、斬新さとスピード感は素晴らしい。尺の長さを感じさせずに見せてくれる。 そのままに時限装置を使われた『スピード』より、はるかにリアルであり、面白い。 今では”携帯電話”という、便利そうなマシンがはびこっているので、あの世界観も理解しにくい世代があるかも。 ダイヤルを廻す間に気持ちが振れる感覚。そのドキドキにどれだけ悩まされたか、はるか昔の恋愛体験… 電話をアップにして静止するカットというのは心理高揚の常套手段だった。 『冬の華』1978年封切り。降旗康夫監督作品。 こちらは、もっと電話が意識的に、効果的に使われて、素敵な恋愛映画になっている。 こちらの健さんは、一番多く演じられたと思うヤクザ。でも時代は暴力団の時代に向かっていた。義理・人情が廃れていく時代に、その事を理解しながらも、それに迎合できない自分を最期まで生きる男。 今は隠居してシャガールの絵に逃避している組長。殺された彼が一番真っ当だったか。 「シャガールはいい」という組長・藤田の声と、「おじさまっ」とさけぶ電話の向こうの池上の声が、今も耳に残る。 全体の雰囲気が好きな映画。あとを引く…『幸福(しあわせ)』1966年封切り。1964年の制作、アニエス・ヴァルダ監督作品。 僕は初見でした。とても映像が美しい。子役が上手で、ドキュメンタリーのような作品だと感じました。 ストーリーは、二人の子供と、きれいな奥さん(私見!)をもつ、大工が主人公。休日には、ピクニックにでかける家族だ。ひまわりの季節、彼らとそれを取り巻く近所や親戚の交流を映し出す前半部。彼も家族も十分に満ちたりた幸福を感じていた。 後半は、一人の女性が加わる。彼は、美しい彼女と、心も身体も結ばれる。そこから彼の二重生活が始まる。彼は二人の女性を同じように愛し、今まで以上の幸福感に包まれていく。 いつものようにピクニックに出掛けた時、奥さんは彼の最近の様子に、「何かいい事でもあったのか」と聞いた(だってとても幸せそうに感じたから)。彼は何の罪悪感もなく、彼女がいる事、奥さんと同じに愛している事を話す。奥さんはその事を理解し(と勘違い)、これからも幸せな人生が続くと想い、彼はうたた寝を。 子供の声で目を覚ますと、隣にいた奥さんの姿はない。彼女は池で溺死体となって見つかる。 彼はかつてない不幸に包まれる。一人ではこの不幸から抜けられない。恋人の元に行き、自分との関係を続けてほしいと願い、彼女は受け入れる。 やがて紅葉の季節、ピクニックを楽しむ新しい家族の姿が。 僕はただただ救いのない映画だと感じ、そのまま家に戻った。でも、この映画について情報を得る事で、こういう作品になるのが理解できたような。 冷ややかに感じた視線は、彼女が写真家だった事を知って、腑に落ちました。真実を切り取る作業を生業として来た作家なら、当たり前だと。いくらアングルを変えても真実は一つですもの。 場面が変わるたびにフィルターをかけるようなカラーが印象的。また子役がいいと思ってたら実際の親子だったんですね。いい表情だった。 監督の夫があのジャック・ドゥミ監督と聞いてうれしくなったり、80歳を超えて発表された作品が、昨年10月に封切られた事にびっくりしたり。家に戻ってからもいろいろ楽しませていただきました。 僕はこの作品の内容から、女性には批判的にとられたんじゃないかと思っていました。が、1966年のキネ旬ベストテン3位のこの作品、読者の女性票では第1位だった事に驚きました。(男性は4位)ちなみにこの年2位の『市民ケーン』は、女性票の上位10本に入ってない。『天城越え』1983年封切り。三村晴彦監督作品。 当時大好きだった田中裕子を観に行った覚えが、今見てもその体当たりぶりに興奮する。(変な云い方かな?) 30年まえの天城峠で、偶然道連れになった少年と女の話。刑事が彼の元を訪れ、当時の物語が回想されてゆく。 殺人容疑で捕まった女を救えたかもしれない少年が、忘れてしまいたかった過去。 これを観ていて、少し前に観ていた『愛を読むひと』を思い出した。どちらも少年は、肝心な時に真実を語れなかった。比較してとても面白かった。 田中裕子の「あにさんっ」も忘れがたい響きだ。 つまらぬ文字群をご覧くださり感謝します。