今年の直木賞は,西條奈加さんの 『
心淋し川』(うらさびしかわ)が受賞した。『心淋し川』は,吹きだまりのようなどぶ川沿いの長屋に住む,心に屈託があるような人々を描いた時代小説。
報道によると評価のポイントは,江戸長屋の人情を描き,人生の悲哀がよく描かれている点,連作短編だが,最後に大きな仕掛けがあって収斂される点などにあるという。
たとえば,夜の街(岡場所)について こう書かれている。〈白粉や醤油に交じって,濃いにおいが立ち込めている。これはたぶん,人の息だ。ふだ んは行儀よく腹に収めている一切を,この場所でぶちまける。それが獣じみた息となって,通りに満ちている。〉
新潮文庫では「善人長屋」シリーズが好評です。シリーズは現在全三作。『善人長屋』『闇魔の世直し』 『大川契り』と続きます。
加助は人助けが生き甲斐。彼が持ち込むやっかいごとに悪党たちは裏稼業の凄腕を活かし,しぶしぶ手を貸すことに。
悪事を働いている人間が結果,善の一助となる。果たして善悪とは何でしょうか。登場人物それぞれの背景や心情を丹念に掬い取る人情時代小説の傑作です。