『おこしやす』
京都の老舗旅館「柊家(ひいらぎ)」で仲居六十年 田口八重著
三島由紀夫、川端康成、林芙美子、チャップリンらが旅先 の宿で見せた素顔と、心に残る思い出に、明治・大正・昭和・平成を生きた著者の心意気を重ねて綴った珠玉の一冊。
ご自分の家にいるのと同じようにくつろいで、ゆっくり過ごしていただければ、仲居としてこれほど嬉しいことはないのです。お客さまに対して旅館ができる最高のおもてなしが「のんびりしておくれやす」なのです。
そして、柊家のモットーも、ここにあります。玄関の上がり框(かまち)のところにかけてある額には、こう書かれています。
「来者如帰」
「釆たる者、帰るが如し」と読みます。この文字の意味は、「おこしいただいたお客さまが、ご自分の家に帰ってこられたようにお迎えする」ということなのだそうです。
(中略)
「お気を使わずに、のんびりお過ごしやす」という、柊家で働く一同の心が、この四文字にこめられているのです。
「さあどうぞ、おあがりくださいませ」柊家をご案内させていただきます。
柊家は、京都の町中にあります。-R京都駅から地下鉄で数分、烏丸御池(からすまおいけ)駅で下車し、戦争中、家屋の強制疎開で拡張された広い御地通を少し東に行って、麩屋(ふや)町に曲がるところの角の、黒い塀で囲まれた日本旅館です。
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