11月14日に死去された直木賞作家の伊集院静(いじゅういん・しずか)さん。作詞家として、近藤真彦の『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』、KinKi Kidsの『やめないで,PURE』など、多くのヒット作をおくり出している。
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伊集院さんは、作詞家として、近藤真彦の『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』、KinKi Kidsの『やめないで,PURE』など、多くのヒット作をおくり出している。そして、ご自身の作詞に関するエピソードを『
大人の男の遊び方 [ 伊集院静 ]』(双葉文庫)で、次のように綴っておられる。
本文82~87ページ
もし機会があればぜひもう一度挑んでみたいと思う歌手がいた。
前川清さんである。
私が作詞した当時は内山田洋とクール・ファイブというグループの中のボーカリストだった。
作詞した楽曲は 『LAST SONG』という曲だ。
これも当時は、どこか違っている気がしたが、人伝えに前川さんがこの曲を気にいっているという話を開いた。
その前川さんから作詞の依頼が、突然にやって来た。
驚いた。
それでも仕事が来るということは喜ばしいことであり、緑があって起こることである。
(中略)
今日の午後(2月6日)、デモテープと譜面が届いた。
イイ曲だった。
何日かかるかはわからないが、今月末にはレコーディングがある。
楽しみである。
小説だとこうはいかない。
楽しんで小説を書いたことはこれまで一度もない。書くのが楽しくてしょうがないという作家もいるが、私にはそんな経験はない。たぶんこれから先もないだろう。
それでは作詞が一から十まで楽しいかといえばそうではない。
やはりいざ完成を目指すと、途中、苦しい時間がやって来る。
前川さんは日本の歌謡歌手の中でもとりわけ、その声が卓越している。
あの声はほとんど天蝋のもので、彼の声は他の歌手にはない。
それを活かす詞を書くのが、私の仕事である。
- さて、どうなるか?