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ある夜の桜
何年前だったでしょうか。
大切だった友人のお墓参りに行って、
帰りに熊本城のすぐ側にあるホテルキャッスルに泊まったんですが、
ホテルの支配人が、
「高倉さん、今、熊本城の桜がとってもきれいなんで、
ご覧になったらいかがですか」
とすすめてくれました。
歩いて本当に数分の距離にあるお城へ見にいったんですけれども、
ドキッとしました。
裸電球がいくつかぶらさがっている下に緋毛髭を敷いて、
自分が歩く音もはばかられるような静けさの中で、
静かに酒を酌み交わし、
一年かけて精一杯咲いた桜の花を愛でている人たちがいました。
花見というと、どうしても歌、カラオケ、手拍子、酔っぱらい。
そういうものを自分は想像してたんですがーーー
桜を見ると、
「南極物語」でご一緒した蔵原監督が、桜をご覧になって、
「あと現役の監督として、何回この桜を見られるんでしょうね」
と呟かれたのを思い出します。
あの時の言葉は、とっても心に染みました。
毎日をしっかり生きなくてはと、そういうふうに思いました。
『旅の途中で』