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2004年08月27日
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浅田次郎さん著書『輪違屋糸里』を読み終えた。
私はてっきり、島原の妓“糸里”と土方歳三との恋物語だと思っていた。その思い込みは、いいほうに見事に裏切られたの。

京都島原(江戸なら吉原のような所)の糸里は、こういう場所で暮らす女たちの例にもれず、女衒の手で子供の頃に売られてきた。島原一の音羽太夫にかわいがられ、芸を磨き一人前になっていく。
糸里の暮らす島原では、相変わらず華やかな世界がひろがっているが、時代は少しずつ動いていた。
京の都では、会津藩が京都守護職に任ぜられたり、江戸から“浪士組”と呼ばれる男たちがやってきたり、長州や薩摩の侍が集結したりと、この国の行方を左右するような動きが始まっていた。
浪士組は壬生に屯所をもうけ、後に「新撰組」と名を変え、その後のことはみなさんもご存じのとおり。
姉と慕っていた音羽太夫は、新撰組局長の芹沢鴨に無礼討ちにされてしまう。音羽太夫の糸里に遺した死に際の言葉「だあれも恨むのやない。ご恩だけ、胸に刻め」。
この言葉こそが、このストーリーの軸になっていることに、後々になって気づかされるのだ。

糸里は新撰組副長の土方歳三を愛するが、土方は聡明な頭脳と腕っぷしとで、世の中に新撰組の名を刻んでゆく。手段を選ばぬ土方のやり方に、糸里さえも利用され深く傷ついていくが、全てを受け入れ、自分の気持と折り合いをつけながら生きていく糸里がいじらしく、本物の女を見せてくれる。
隊士に翻弄されたたくさんの女たちが登場し、様々に新撰組を彩っていく。
糸里をはじめ、やはり島原の妓“吉栄”、屯所とされた八木家の女房おまさ、同じく前川家の女房お勝、芹沢鴨の女お梅...ある意味、それぞれの思いで新撰組と心の戦をした女たちだ。

女としての矜持を通し、“男気”というが“女気”という言葉があるのならば、まさにそれである。
物語も終りの頃に、糸里は土方に「男を羨んだことはないのか」と聞かれる。答は「ただのいっぺんもあらしまへん。わては何べん生まれ変わろうと、おなごがよろしおす」土方は、体がしぼむほどの溜息をついたのだ。かっこいいなぁ。

「だあれも恨むな、恩だけを刻め」との音羽太夫の言葉を、それぞれの女たちが、命をけずられるような思いをしながら、自分の生き方としていく様に、拍手を送りたくなる作品だ。
静かな感動とともに、女として生まれてきたことに感謝し、胸を張れること間違いなし。男の人に読んでほしいなぁ...

改めて浅田次郎さんの魅力にとりつかれた、まる茸でした。






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最終更新日  2004年08月27日 23時56分38秒
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