ー 映画 赤ひげ」ー
江戸時代の小石川養生所、
そこには、底辺でのた打ち回る貧しい病人たちが、
まるで、最後の死に場所を求めろように、
死と貧しさのすえきった悪臭を放ちながら、
たくさんの病人が詰め込まれていた。
そこへ、ある日
長崎で和蘭陀医学を学んだ青年・保本登が訪れる。
前任者が、耐え難いこの養生所を見捨て、
若き、保本登が後任者として迎えられようとしていたのだ。
養生所のあまりの貧乏くささと、
ひげを生やし無骨な所長・赤ひげに好感を持てない保本は、
養生所の禁を犯して、
ここは、長崎で新しい医学を
学んできた自分がいるところではないと、
徹底的に、反抗し、
破門されることを望み、昼から酒をあおっていた。
しかし、骨心の人、赤ひげは、
彼の反抗など全く意ともせず、
次から次へと、彼にここでの仕事を黙って与えていく。
保本も、そんな赤ひげに
次第に興味を持ち始め、
医師見習いとして
小石川養生所に住み込むことになる。
若き保本は、
毎日、赤ひげと行動を共にしていくうち、
赤ひげの、貧しき、病人たちへの深い愛と、
真の慈養の意味を知っていくようになる。
お上は、平気で予算を削り取っていく。
そこで、赤ひげは
城主や、金持ちからは、法外な診療代を巻き上げ、
養生所の維持にそれを回す。
赤ひげにとって、
一番大切な者は、命であり、
様々に凄惨に
生き抜いてきた底辺の人々の心様を、
真に人間理解することであった。
そのためにも、保本を立派な医者にするため、
あらゆる現実を、彼に突きつけていく。
突きつけられながら、
時には吐き、時には失神しながらも、
保本もだんだんと抗しがたい、
赤ひげの魅力に引きつけられて行く。
赤ひげから、人間の尊大さと、
底知れぬ滋愛を学んでいくようになる。
そして、赤ひげに
すべての信頼をを委ねている、
貧乏な人々の姿と、
その心の機微を知り、深く心を動かされていくのだった……。
全ては、書ききれませんが、
私がやはり驚いたのは、
三船敏郎の、絶対的な存在感!
この人以外に、赤ひげはいないと思わせるほどの、存在感!
そして、若き保本を演じた加山雄三の初々しさ。
さすが、映画界のサラブレッドを感じさせる笑顔の良さ。
若者のおごりから、
直面する別世界の日々の中で、
自ら内省することを知り、
若鷹のように医者として成長を遂げていく姿。
そして見所は、当時、名子役と言われた、
二木てるみの壮絶な演技!
大人になって、
この映画を鑑賞できて良かったと思います。
若い頃ならば、
ここに登場した人間の哀しみを、
こんなには、味わえきれなかっただろうと思います。
たまには、古い名作もいかがですか…
■山本周五郎原作■
『赤ひげ診療譚』より
黒澤明監督
三船敏郎、加山雄三主演