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私は、小説が書けない

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カテゴリ:シリアスな話
何の変哲もない、平凡な水曜日の午前。
そんな今日、母親は街の中心街へ買い物に出かけた。
目当てのものを手に入れ、少しぶらぶらしたのだが、
「蒸し暑いなぁ、もう家に帰ろう」と思い、駅のほうへと歩いて行った。

駅前には数々の店が連なり、その歩道のすぐ外側には
客待ちのタクシーが数珠繋ぎに列をなしていた。

本来なら、そんな見慣れた光景に目もくれず、
そのまま家路へと足を進めるはずだったのだが・・・

「コノヤロウ!このクソヤロウ!」
女性の金切り声が、母親の耳に飛び込んできたのだった。

ふと目を上げると、駅前の店の一つである和菓子屋さんの前で、
20代前半ぐらいの女の子が2人、中年の男性が1人がいた。

女の子の一人は地面にしゃがみ込んで泣きじゃくっていた。
もう一人の女の子は、中年男性の腕を引っ張っていた。
叫んでいるのは、この彼女だった。

男性は、叫んでいる女の子の手を振りほどこうとしながら、
蚊の鳴くような声で、「違う、間違いや・・・」

母親は、辺りを見渡した。
神戸の中心地の駅前なので、平日の午前とはいえ、
通行人はたくさんその場を通っていた。

しかし、誰一人と足を止めることはない。
時折、ほんの一秒ぐらい視線を投げかける人もいたのだが、
結局みんな見て見ぬふり。

客待ちのタクシーも、運転手たちは窓の内側から
チラッと見るだけで、知らぬが仏のスタンスを決め込んでいた。
和菓子屋でさえ、自分の店先で事態が起っているにもかかわらず、
戸をピシャッと閉めたまま。

「ケンカ?だから皆、無視してるんかなぁ?」
母親は、最初そう思ったそうだ。

しかし、地面にしゃがみ込んでいる女の子は、肩を震わせ泣いている。
もう一人の女の子は、叫びつづけながら、男の腕を離そうとしない。

「これ、単なるケンカとちゃうわ・・・」
そう思った母親は、叫んでいる女の子のところへ歩み寄り、
「どうしたん?何があったん?」と声を掛けた。

すると彼女は、「この人、痴漢なんです!」
そして、泣いている子を顎で指し、「私の友達を触ったんです!」

母親が中年男性のほうを見ると、彼は目を伏せ、
ただ「違う、当たっただけや・・・」を繰り返すのみ。
彼の腕を掴んでいる女の子は、「そんなワケないやろ!
あれが、ただ当たっただけか!?そんなことあるかぃ!」と、
まるで肺が破れそうな声を上げていた。

その時、ある言葉が母親の脳裏を横切った・・・
冤罪

つまり、罪のない男性が「痴漢」として警察に突き出され、
見に覚えのない罪を着せられる。
長い裁判の結果、例え勝利を勝ち取れたとしても、
その後の人生に多大な影響が及ぼされる。

母親は、思った。
「今、自分の目の前で起っていることが
この中年男性をただ陥れるための作戦だったら?」

しかし、彼女はすぐにその考えを頭から追いやった。
なぜなら、女の子が泣いている。
しかも、自分の荷物を地面に放り投げ、
そのことすら気づかずに泣きじゃくっているのだ。

では、彼女が名演技をしていたら?
百歩譲ってそう考えたとしても、中年男性の言動が怪しい。

自分にまったく非がなく、潔癖だとしたら?
人通りが多い駅前で、そんなイチャモンをつけられたとすれば、
誰だって怒り出すのが普通だ。
それこそ、「違う!」と大声で反論するだろう。

しかし、同じ「違う」という言葉でも、
この中年男性の声は非常に弱々しい。
それに、どうにかして、その場から逃げようと、体をくねらせていたのだった。

その頃、じわじわと、少数ながら母親の後ろに人だかりが出来ていた。
ただ、悲しいことに、女性ばかりだった。男性は一人もいない。

母親は、振り返り、こう言った。
「私、携帯持ってないの。誰か、警察に電話してくれる?」
人だかりの中から、一人の女性が「はい」と答えた。

母親は再び、中年男性の腕を掴んでいる女の子のほうを見た。
勝気な女の子、正義感のある子。自分の友達を守るため、
痴漢に立ち向かっている勇気のある子。

しかし、その細い腕で、あとどれぐらいその男を押さえられるのか?
やはり、力の面では、どうしても男性の助けが必要だ。

すると、その時!

まるで救世主のように、2つの青い目がこちらを見ていた。
男性の誰一人が通り過ぎて行く中で、その外国人は足を止めてくれたのだ。

母親は、「プリーズ!プリーズ!」と大声で、彼のほうへ駆け寄った。
「プリーズ、ステイ!ポリスマン、カム スーン!」

ブロークンな英語だとはいえ、
「警察がすぐ来るので、ここにいて!」という彼女の意思は彼に通じた。
「オッケー」と答えた彼の腕を引き、
母親は押さえ込まれている中年男性のところへ連れて行った。
そして、「彼を押さえてください」とジェスチャーで伝えた。

体格の良い外国人に肩を押さえられた中年男性は、観念したのだろうか
もう何も弁解することなく、逃げることも諦めたようだった。

しかし、母親はそれでも安心しなかった。
スクーターを押しながら歩いている若い男の子を捕まえ、
事情を手短に説明し、その場に居てもらえるよう頼んだ。
その男の子は、「いいですよ」と言い、外国人と一緒に痴漢を見張ってくれた。

そして、それまで一人で戦い抜いていた女の子に、
「もう、手を離してええよ。
外人さんと、この男の子が見張っててくれるから」と、告げた。
すると、それまで鬼のような形相だった女の子の顔に、わずかだが
安堵の笑みが広がったのだった。

そうこうしているうちに、ようやく警察が到着。
「もう、大丈夫やね・・・」
そう思った母親は、静かにその場を去った。

*****************************************************************
ブログ復帰後、2回目のエントリーにして、こんな長文でごめんなさい。
最後まで読んでくださってありがとうございます!
もっと軽いタッチで書こうとも思ったのですが、やはりこのような内容を
おちゃらけた感じで書くのも気が引けたので、シリアス調にしました。
そして、私の思いを一切文章に加えず、母親から聞いた通りに書きました。
ここから、私が思うこと・・・
この件に関しては、タイトルにもあるように、ただただ自分の母親に
「あっぱれ!」と言いたいです。母親は結婚して神戸に来てから
○十年にもなりますが、根っからの大阪人魂の持ち主。
大阪のおばちゃんは最強です。正義感があって、弱いものいじめが大嫌い。
しかし、私は思います。大阪のおばちゃんであっても、そうでなくても。
関西人でも、関東人でも。日本人でも、外国人でも。果ては、宇宙人でも。
困っている人が目の前にいるなら、助けなければ!
「見て見ぬふり」は卑怯です。私は卑怯者にだけはなりたくありません。
勿論、“一人”では不安がいっぱい。でも、それなら、母親のように
まず最初に行動を起し、その後援助を求めればいいのです。
そう私は信じています。そして、私も、同じような状況に遭遇したら、
躊躇なくこのように行動しようと、今日改めて決意しました。





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最終更新日  2007年06月13日 20時42分43秒
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