父親の思い出話を、一つ・・・
これはまだ、彼が新米パパだったころのこと。
私は3歳で、それこそ「口から生まれて来た」と言っても過言でないほど、
とにかくよく喋る子だった(今も、同じ?・・・笑)。
しかも喋るだけでは飽き足らず、来る日も来る日も父親に、「お話して!」と催促。
しかし、父親も神ではない。
こう毎日となると、さすがにネタが尽きてしまうのだ。
ってなワケで、ある手を使うことにした。つまり、質問を浴びせかける。
相手は幼児だから、すぐに飽きてしまうだろうと彼は考えたのだった。
「abimegちゃんは、ワンワンちゃんですか?」
「ち~が~う~!私は、abimegちゃん!」
「じゃあ、ニャンニャンちゃんですか?」
「ち~が~う~!私は、abimegちゃん!」
「オカシイなぁ。それじゃ、お馬ちゃんですか?」
「ちがうの~!私は、abimegちゃん!」
次々と動物の名前を並べ続ける父親。
しかし、3歳児abimegから返って来る返事はいつも同じ:「私は、abimegちゃん!」
ここで、ふと。彼は考えた。
「この子はまだ、“人間”という概念を理解していないのではないか?」と。
ということで急遽。作戦変更。
「質問攻めで飽きさせる」計画から、
「“人間”だという自覚を持たせよう」計画へチェンジすることにした。
「お馬ちゃんとかは、4本足で歩くよね?」と父親。
「うん。」と私。
「でもabimegちゃんは、2本足で歩くでしょ?」
「うん・・・」
「2本足で歩くのは、人間やで。」
「ふ~ん・・・」
未だかつて考えてもみなかったことが、私の頭の回路を
行き巡っている様子を確認すると、父親は最後の説得に出ることにした。
「パパも、2本足で歩くでしょ?だから、パパも人間。
abimegちゃんはパパから生まれた、パパの子やから、人間やねんで。」
すると、ここで。私が思いがけない発言を。
「私は、ママのお腹から生まれたんやで~!」
これには、父親は少しガックリときてしまった。
まあ、所詮。お父さんってそういうものなのだ、と自分に言い聞かせ、
「ママも2本足で歩くよ。ママも人間なら、abimegちゃんもそうやで。」
これには、私もすんなり納得したそうだった。
その数日後・・・
「パパ!お猿さんも、時々2本足で歩くよ!」
3歳児とはいえ、子供の記憶力は大したものだと関心しつつ、
父親として最後まで責任を持って教えなければならないと思い、
彼は良い案がないかと頭をフルに回転した。
そして、生み出された答えは:
「お猿さんは、毛むくじゃらやん。だから、人間じゃないよ。」
「あ、そっか・・・」
これで一件落着と、胸をなでおろした父親だったが。
それがなんと甘い考えかと、思い知らされることになったのだ!
そのまた数日後・・・
目をまん丸にした私が、興奮気味に、
「パパ~!お好み焼き屋さんのおじちゃん、毛がいっぱい生えてるよ~!」
それ、ヒゲやん。勘弁して~…
と、父親がつぶやいたかどうかは定かではないが、
これにはさすがの彼も参ってしまった。
と同時に、彼は思った。
「子供の素朴な疑問には、全身全霊で向き合わなければならない。
いい加減な返事はできない。面倒だと思ってはならない。
なぜなら、それはわずかな時間しか味わえない“黄金の時”なのだから」と。