お店の名前は、忘れた。料理の名前も。味は、とても美味しかった。それは、舌が覚えている。そして何よりも、このビジュアル。写真に収めたから記憶にあるのではなく、今でも目にくっきりと焼きついている。器がテーブルに運ばれた時の印象は、それほど強かった。そこに広がるのは・・・
冬景色?
でも、銀世界とは呼べない。ポコポコッと顔を覗かせているのは、新たな命。雪の重みに耐え、その凍える冷たさの下でジッとして。ようやく機会を掴むと、「こんにちは」と現われて。そう、これは・・・
春の気配!
暦では、まだまだ冬の今日この頃。次の季節を語るには、あまりにも時期尚早。後どれぐらいダウンコートに身を包めば、後どれぐらいかじかんだ手をこすり合わせれば、後どれぐらい吐く息の白さを眺めれば、草花が萌える季節が訪れるのだろう?
それでも、「春」への期待に胸が躍る。この器の中に在る小さなワールドがそれを約束してくれているから。そのうちやって来るのだと、きっといつか必ず。
だからこそ、詩(うた)が生まれた・・・
ほのかなる 陽だまりの中 顔上げて
背筋伸ばして 春と語らん