姫が自分ひとりで身支度を整えるということ。
高い高い目標だ。長い道のりと険しい壁がいくつも待っている。
顔洗うよ~~と声を掛けると反対方向へ突っ走る。
何度も呼んでやっと洗面所へしぶしぶ現れた。
「はい、お顔ごしごし!」
水を触るのは大好きだけど、顔がぬれるのは大嫌い。
でも母が隣で仁王立ちしているのを知っているし逃げられない。
とりあえずホッペだけを、ぬらした手でちょいちょいと触る。
いやん、それじゃヨダレしかぬぐえていない。
母からみたら他に洗って欲しいところが全然なので、不可。
もっと、と要求する。しかし、ココから先はまだ譲れないらしい。
私が洗おうとすると拒否反応がひどかったので、お目目つぶって~
ハイ、お目目きれいキレイ、と濡れタオルで拭かせる。
一応その通りするけど、口は黙っちゃいない。
もう十分やったろう、という抗議の声。←小型サイレンのように唸る。
そこからは母の手が強制的におでこと首と耳の後ろを拭いて行く。
あ~あ、昔、母の洗顔中、石鹸の泡をドビーのホッペにつけたとき、
そのままこすって自分の目に入れちゃったのがいけなかったんだろうな~
などと考えながら、きれい~♪可愛い~♪と褒めちぎる。
さて!お次は髪を梳かして結ぶこと。これが一番の難関だ。
私がブラシを持っているのをみただけで逃げようとする。
ブラシは友人から可愛いのをいただいたので、まずそれに慣れることから。
自分の髪はいやだけど、母の髪は梳いてくれる。兄の髪も梳いてくれる。
兄たちはいやいやだけど、母から応援要請が出ているので1分は我慢。
これ、本当はお人形の役だけど、我が家には1つも無い。
さあ次はドビーの番だからね、とブラシを持つ手を自分の頭に当てさせる。
…んが!ここからブラシを放り投げ、逃走。
髪の毛が細いので、いつも真後ろの髪が毛布に絡まって、
昔はいつもエライことに…酷い時は毛玉になっていたのだ。
今はまず、夜寝る前に二つに結ぶので、朝梳かす苦労は何も無いはず。
しかし、あの絡まった髪を梳かす痛みを覚えているのか、どうしても
ココから先、嫌がる。母は洗面所の隅に追い詰めて、可愛い~痛くな~いと
呪文を唱えながら、まず二つに結んでそれをお下げに編んでいく。
ショートヘアにしていたらいいのだろうけど、可愛いスタイルに切れない。
養護ではスカートを許されていないので、女の子と自覚してもらうため、
兄たちとは違うと分かってもらうため、4年生の夏から伸ばし始めたのだった。
もう一つ、養護学校の女の子たちは、ショートヘアの子が圧倒的に多い。
特にほのぼの学園で暮らしている子供たちは、全員まるでスポーツ刈り。
みんな可愛いのに、、、胸が痛い。
だから余計に私がムキになって、ドビーの髪を伸ばしているのかもしれない。
一人で顔を洗って髪の毛を結べるまで、まだ遠い道のり。だけど頑張ろう。
はさみを使えるドビーだけど、まだ自分の髪の毛を切ろうとはしてないし…。
結び終わって一緒に鏡を見る。可愛い~というとニッコリ笑ったあと、
イイ~~だ!という口の両端にゆびを突っ込んで引っ張った変な顔をする。
今の彼女のマイブームらしい。可愛くないってば!!