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The holy place of a seed~種の聖地~

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2007/12/15
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プロローグの後半です。



まずはじめに、前半部分を読むことをオススメします。




─────────




「ひぃっ……!!」

それは見たことが無かった。

小さいが、それでも何でも引き裂けそうだと思わせるのに十分である鋭い爪。
背中からは、数本の触手が蠢き、時折脈打つように痙攣している。
眼が無いようだが、恐らく前についている鼻で臭いを判断して目標を見分けるのだろう。
そして、一番特徴的なのが、緑色の半固形状のジェルに覆われた口を持つ細長い首。
こんなにも特徴的な姿は、今まで一度も見たことが無かった。

そう、新種だった。

新種のアグリネスの口の周りを覆うジェルから緑色の唾液が零れ、カメラアイを汚していく。
メインカメラの落ちた唾液の中には、10センチばかりの大きさのゴキブリのような蟲が混じっ

ており、それらの眼が私と視線が合う。

「あ……ああっ……!」

その蟲は、カメラアイにへばりつき、その口で噛り付いた。
カメラアイを覆う特殊板を次第に穴を開けようとする様は、今すぐにでも食い破って中に入っ

てきそうな錯覚を見させる。

「動け、動け、動いて……!」

操縦桿やペダルを滅茶苦茶に動かす。
しかし、機体の手足には触手が巻きついており、それらが動きを抑える。

その一連の動作が邪魔になったのか、アグリネスの触手の締め付ける力が強まり、手足を引き

千切る。

「きゃあぁぁぁぁ……!」

引き千切られた時の衝撃が走る。
コックピット内には、アラームと共に赤いランプが点滅する。

──口を覆う緑色ジェルが溶け機体に垂れ落ち、落ちた箇所から装甲が蒸発していくのが見え

た。

ジェルが消え露になったアグリネスの口が大きく開く。
それは私をあざ笑っているように見えた。

その口が、融けて薄くなった装甲に噛り付き、機体に激しい揺れが襲う。

カメラから画面に映される映像がブレ、衝撃が走るたびにノイズが激しくなり、最後は画面か

ら光が失われた。

「イ、嫌ッ……!!! し……死に……たくな……た、助けて、京麻ァ!!」

気が付けば、死の恐怖に怯え、自身の想い人の名前を叫んでいた。

そこには、武家の名を重んじ、上に立つの者としての誇りを忘れるな、と言い聞かせていた自

分の姿は無く、一人の怯える少女そのものとなっていた。

音が次第に大きくなり、コックピットの壁が変形していく……
どうにか逃げようと思っていても、恐怖のあまり、いい方法が浮かぶことはなかった。

そして、コックピットに亀裂が開いた。
その亀裂の隙間に爪が食い込むのが見える。

ギギギギィィィ──。

立て付けの悪いドアを開くように、音を立てて亀裂が広がり──
──巨大な口が現れた。

「ぁ……ぁぁ……」

死ぬ。
自分は例外なく殺される。

──口が開き、唾液が流れ落ちる。
その唾液は、私を保護する装甲服を溶かし──私の肢体をも焼く。

「■■■■■■■■───!!!!!!!」

激痛の余り、自分でも理解出来ない叫び声を上げる。

保護装甲を溶かし、耐強酸仕様の保護スーツの分解作用に中和されても、それでも中和しきれ

なかった酸がスーツをゆっくりと溶かし、その熱が私の皮膚を焼いていく。

やめて──。
それ以上はやめて。

私の中には……彼との……。

たった三日前に気付いた命。
まだ、生まれてから一ヶ月も断っていない、愛しい子供が……。

「ヒィ──ハァ──、きょうま……京麻ぁぁぁぁ!!」

激痛の余り、愛しい人を叫ぶ。
いつまでも支えると誓い、そして守ってくれると約束してくれた尊い人。

その彼が、きっと……いや、必ず助けてくれる。
なぜなら……。

『消えろ、糞野郎が!!』

彼は嘘をついたことがなかったからだ。

一機の駿河が颯爽と飛来し、腕の可変式防護盾でアグリネスを殴り飛ばす。
アグリネスは吹き飛ばされ、立ち上がろうとするが、すぐさまそこに追撃の弾丸が打ち込まれ

、動きを止めた。

アグリネスの行動停止を確認すると、京麻の駿河はこちらに駆け寄った。

『大丈夫か……!?』

ヘルメットのスピーカーを通して、京麻の声が聞こえる。
急に息を呑む声が聞こえ、京麻は私の状態を理解したのが良く判った。

「きょ……きょ……うまぁ……」
『直ぐにたすけてやるからな』

喋ろうとする私を、京麻は言葉を遮る。
そして、コックピット周辺のみになった私の機体を両腕で抱え、ニードル級の砲撃を避けなが

ら、味方の方へと後退して行く。

「きょうま……」
『暫く待ってくれ、すぐに仲間に引き渡す!!』

駿河が一度立ち止まり、背部から迫り来るアグリネスの群れに突撃砲を掃射する。
一度の掃射で、十数匹のアグリネスが吹き飛ぶが、それでもしとめ切れない数十匹は仲間達の

死体を踏み上げてやってくる。

『糞!』

再び、駿河が仲間たちへと向かっていく。

「ちがう……ょうま……」
『……』
「ごめ……い……私と……あなたの……」
『ああ、判ってる……』
「……怒ら……いの?」
『俺がお前を怒れる訳ないだろ?
それよりも、暫く喋るな。体力を消耗してしまう。』
「でも……」
『俺はお前に生きていて欲しいんだ。
確かに、腹に居た子供は助からないかもしれない……。
でも……お前が生きてくれればそれだけでいいんだ。」
「きょうま……」

それから京麻と私は黙りっきりだった。

京麻の駿河は味方の固まる位置の後方へと下がり、私の機体を地面に降ろした。

『こちらランサー2!! メクロティア小隊、ランサー1が負傷した。
負傷状態が酷いため、状態維持固溶ジェルを流し込んでトラックに収容してくれ。』
『了解。』
そうして直ぐに、四脚の救助支援の外戦装甲機が現れた。
外戦装甲機は、背中から消化ホースのような物を取り出し、私のコックピットに黄色のジェル

がゆっくりと流れてくる。
ジェルは私の身体に触れると直ぐに凝固し、私の身体を覆い隠していく。

状態維持固溶ジェルは、前線で負傷した兵士を死なせないために考案されたものだ。
人体がジェルに触れた時、身体の表面を覆い隠すようにジェルが凝固して行く。
ジェルには、麻酔効果と栄養剤、その他の維持に必要な物質が含まれており、頭部を含めた身体全体を覆い隠しても、生存可能という代物だ。

怪我した人間をこのジェルで覆い隠して放置したところ、最高で3週間ほどの生存維持が可能だということが、研究の初期段階で発覚している。

麻酔効果によって、身体に走った激痛は次第に収まり、私の視界がだんだん暗くなっていく。

視界の向こう側に、京麻の機体とは別の駿河──肩のナンバーでランサー3だと判った。

『ランサー2、隊長の代わりにお前が指揮を執ってくれ!!
このままじゃやられるぞ!!』
『ああ、判ってるさ……!
これより、ランサー1に代わりランサー2が指揮を執る!
各隊……直ちに救助活動は中止し、Fラインまで撤退を開始を始めろ!
特概機部隊は前線で足止めをし、火力支援外戦装甲部隊は援護射撃に回れ!!』
『ランサー2!? おい、HQと連絡が取れないって言うのに、勝手に撤退するつもりか……!?』
『いつまでも繋がるか判らない連絡を待ち続けて、死にたいのか……!?
全責任は俺が取る!!
ランサー3は、ジュリエット小隊を連れて救助部隊のトラックの護衛に付け!!』
『……糞、どうなっても知らないからな!?
ジュリエット小隊、俺に続け!!』

そう言って、ランサー3の機体はどこかに去っていく。
それを確認すると、京麻の機体は私を見た。

『生きてくれ、俺はもう何も失いたくないから……』
「京麻……」

ゆっくりと流されていたジェルが首まで浸され、次第に私の顔を覆っていく。

『ラージ小隊! 最前線で敵の陽動を行う!!
武器の補充完了は五分で行え!!』
【了解!】

京麻の機体は私に背を向け歩き出すが、もう一度振り返り、

『行って来る……』

そう呟いて、彼は私の元から離れていった。

次第に消えゆく意識の中、彼の機体の後姿をいつまでも見続ける。
そして、意識は完全に消え去った。

このとき、彼と交わった最後の時だったとは、私は知るはずも無かった。


──私が再び目覚めたのは、それから一ヵ月後だった。


00-END.


(感想、お待ちしております)





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最終更新日  2007/12/16 12:25:08 AM
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