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カテゴリ:クロノス小説
とある場所
「ここは?」 エルファリアはその場所にたどり着くと、開口一番にそう言った。 不快というわけではないが、自分の体がまるで自分のものでなくなるような、 そんな奇妙な感覚に支配された空間。 「ここはクロノスであってクロノスではない場所。 クロノスと薄紙一枚隔てた世界……いうなれば精神世界ってやつさ」 デューイはさらりと言ってのける。 「精神世界……」 エルファリアはその意味を刻み込もうと、ポツリと反芻して、 はたと思い至った疑問をぶつけてみる。 「! そういえばどうしてわたしをこんなところへ?」 「ん~……まぁいろいろ理由はあるんだが、 一番でかい理由は俺には相棒がいなくてな……それでエルファリア、 お前に白羽の矢を立てたってワケさ。 あ~……そんな顔するな、何も引き抜こうってワケじゃねぇ。 ただ、安心して背中を預けられるヤツじゃねぇと、俺の命がいくつあっても 足りねぇからな」 その説明にエルファリアは難しい顔をしたまま 「だったらなおのことわたしを選んだ理由が判らないんですけど…… わたし『D』判定だったんですけど?」と、適正試験での経緯を話す。 「だからこそお前を選んだんだよ。 知らないだろうから教えておくが、普通適正試験で『全ての判定が』Dなんてことはありえねぇ」 「それって……?」 「まあ最後まで聞けって。 この世界でのクラスってやつは、その指向性から1つのクラスに判定がついちまうと 『他のクラスには判定がつかない』ようにできてるのさ…… つまり、全てのクラスに『判定がつくこと自体』ありえないってワケさ。 ここまではいいか?」 「ええ」 デューイは確認を取るとそのまま続ける。 「よし。 で、だ……そんな判定がつくって事は、大きな可能性を秘めてるってことに他ならねぇ。 俺はそれを買いたいんだよ」 「そういうことですか…… えっとそれでわたしはどうすれば……?」 エルファリアの質問にデューイは奇妙な返事をした。 「そーだなぁ…… まずは『1週間ここで普通に過ごしてろ』」 そのデューイの返事の意味が判らずに、エルファリアは聞き返した。 「え? 1週間って……期限の日ですよ?」 「あ~……言い忘れてた」 デューイは頭をぽりぽりとかきながら続ける。 「ここは現実空間と時間の流れが違う。 向こうの1週間で、こっちの1ヶ月って寸法だ…… 俺の目に狂いがなければ1週間もかからねぇとは思うが」 「買いかぶりすぎですよ」 思わずエルファリアは苦笑する。 「んなこたぁねぇさ、俺はこー見えても人を見る目は確かなつもりだ。 とにかく1週間ここで生活してみろ。ここでの感覚を身に着けちまえば何もかも解る」 エルファリアの声を遮って、デューイは言い放つ。 こうしてエルファリアの特訓が始まった。 別のとある場所 一行は途方に暮れていた。 まさかあれを振りほどくだけの余力が残っていたとは、誰も思いもしなかった。 辺りをくまなく探したが、結局「それ」を見つけることはできなかった。 業を煮やして検索範囲を大きく広げたところで、微かに反応があった。 反応を追おうとしたものの、突然反応が消えてしまったため追跡は不可能になった。 しかし、一行はその奇妙な反応から、ある結論に至った。 「『それ』は『この世界』とは違う『別の世界』へと渡ったのだ」と…… 一行の1人がキッパリと断言した。 「次に反応が現れたら必ず追える」 精神世界 「どうだ? 何か掴めたか?」 デューイは意地の悪い笑みを浮かべて、ここ数日繰り返されてきた何度目かの質問をした。 精神世界に着いてから4日目になる。 「『どうだ?』って聞かれても…… 判ったことといえばこの空間、空気の中に何かが混ざっているような気がするんですけど」 (ほぅ……何も教えてねぇのに、そんだけ判るってのは大したもんだ) エルファリアの答えにデューイは感心しながらさらに聞く。 「それがなんなのか判るか?」 難しい顔をするエルファリア。 「う~ん…… うまく説明できないんですけど、雰囲気というか……違うなぁ。 何かの気配? そんな感じです」 デューイはその答えに満足げに頷いた。 「そんだけ判れば問題ねぇな」 「へ?」 エルファリアは間の抜けた声を上げる。 「俺が教えたかったことはエルファリア、今お前が言ったような『気配を感じろ』ってことさ。 それを掴みさえすれば無駄な動きをしなく済む…… な? 言ったろ、1週間もかからねぇって」 「ホントですね」 「これで訓練の第1関門はクリアだ。 これから実戦形式でお前を鍛えるからついてこいよ?」 「お手柔らかにお願いしますね」 苦笑しながらエルファリアはそう答えるのだった。 クロノス城ギルドSSDアジト 「エルちゃん大丈夫かなぁ」 アルテミスはテーブルに突っ伏してぼやいた。 「またそれか? アルは心配しすぎ」 「シュウは心配しなさすぎだよ! エルちゃん連れてったのはアイツなんだよ!?」 苦笑するシュウにアルテミスは怒りをあらわにする。 「落ち着きなよアルさん。 デューイも何か考えがあってのことだろうから無茶はしないはずだよ」 悲魔がそう言ったことで少しは落ち着いたものの、まだ納得しきれていないようで、 「それにしたって連絡ひとつしないなんてどーゆーことよ」と、頬を膨らませる。 「『連絡しろ』って念を押しても、デューイには効き目ないからなぁ…… 信じて待つしかないだろ」 シュウの言うことはもっともだが、それでも不信は拭いきれず、 アルテミスは頬を膨らませたままぼやく。 「戻ってきたとき、エルちゃんにもしものことがあったら絶対許さないから」 ふたりにそれが聞こえてしまって、お互い顔を見合わせて肩をすくめるのだった。 精神世界 精神世界で29日目。 その日、数合目の剣を合わせたデューイは、彼女の上達ぶりに舌を巻いていた。 (やっぱり俺の目に狂いはなかったな…… こいつは想像通り……いや、想像以上だ) 考えことをしていたせいか、噛み合っていた剣の力が緩んだところに突然ひねりを入れられる。 (!? しまっ──) キィンッ! 甲高い音と共に持っていた剣が弾き飛ばされて、気がつくと首筋に冷たい感触。 そしてエルファリアはデューイを見据えたまま、落ちてきた剣を左手でダイレクトにキャッチした。 「……お見事」 「試合中に考え事ですか?」 エルファリアはイタズラっぽく笑うのだった。 「ふぅ……これで教えることは全部教えた。 明日1日は体を休めるか……」 精神世界30日目。 ゆっくりとくつろぐエルファリアはふと思ったことを質問する。 「そう言えばここに来たとき言ってましたよね? 『わたしだからこそ選んだんだ』って。 あれってどういう意味なんですか?」 「あー、あれか…… 俺には相棒がいねぇってのは話したな?」 エルファリアが無言で頷く。 「じゃあ素朴な疑問だが『なぜ相棒がいねぇのか』って話になってくる。 それはな……俺の身体能力が絡んでるからなんだよ」 「身体能力?」 そう聞き返すと、 「あぁ。 説明するのはめんどいな…… エル、お前ちょっとそこに立って構えてみな」 エルファリアは言われるままに剣を抜いた。 「いいか、なにがあっても絶対動くなよ…… 数ミリでも動けば命はないと思え」 デューイはそう言うとわずかに腰を落とし、鞘に収められた剣を左手で支えて 右手を柄にのせた。 「念を押して言うが絶対動くなよ、判ったな」 「……はい」 コクリと喉がなる。 次の瞬間、一陣の風と共に戦慄が駆け抜ける。 チンッ! と、鍔が鳴った。 気がつくと相対していたはずのデューイがエルファリアの後ろにいた。 「一体なにを?……痛っ!」 左の頬がほんの僅かだが、浅く斬れていた。 「これが俺の能力ってわけだ。 これのお陰で食っていけるんだが、仲間を危険に晒すことも多くてな…… こんな『異端』な俺が相棒を作るわけにもいかなくてな」 デューイは自嘲的な笑みを浮かべて続ける。 「そんなときお前の事を聞いた」 「わたしの?」 「聞いたと言うより、頼まれたんだよ。 お前のことを少し面倒見てやってくれってヘガーからな。 ま、そんなワケだ。 っと……これは悲魔たちにはオフレコにしといてくれ」 「はぁ……」 とエルファリアは曖昧に返した。 「よし。そろそろ戻るか」 そう言ってデューイは来たときと同じようにナイフを一閃させた。 -to be Continued- お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Jul 7, 2006 06:47:13 PM
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