カテゴリ:考えさせられる話
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人気ランキングに参加しています。良かったらお願いします。 にほんブログ村 ^-^◆ バ ス の 中 の 少 女 <RequestによるRevival> 木垂という停留所からバスに乗った。混んではいない。 全席の半分くらいが空席………。 後ろから2番目の窓際が空いていたので、いつも通り座る。 非常口のある所だ。 いざという時に男が誘導しなければならないから、 空いていれば大抵ここに座る。 発車がぎこちなく、ガクンガクンと引っかかった様な始動。 あんまり上手な運転手ではない。良く見ると、空席は10個以上。 私の嫌いなシルバーシートには一人座って前二つが空いている。 早く全席シルバーシートにして欲しいものだ。そうなったら、 色を変える必要も無いか……。人の心も一色にせねばなるまい。 旧国道3号線………。優しい揺れにウツラウツラ……心地よい。 しかし停留所の発着でガクンと揺り起こされる。若い運転手だ。 20分も乗っていただろうか……神の葉という停留所で10人 を越える客が乗ってきた。皆さん60代後半という感じ。 白のスポーツウェアに身を包んで年よりやや若く見える。 どうやら、ゲートボールのお仲間のようだ。 中の3、4人の女性の席取りの早い事、早い事……。 他の人はゆっくりゆったり上がって来た。 先に乗ったスラッとしたご婦人の指示で次々に着席。 どこの世界にも人の世話をやく人がいるもんだ……。 今日は試合だったのだろうか? 皆さんの靴に真っ白なおニューが目立つ。 それにしても最近のご老人は元気が良い……。 話し声にも気合が入っている。 「XXさん、そこ譲って貰ったら?」 座り損ねて、乗り口の前に立っている仲間の男性に向かって、 例の仕切りのご婦人が声をかけた。 「…………」 立っていた帽子の似合う男性が振り向いて、 「良いから、良いから」 という風に首を振った。 柔和な顔に鬢の白髪が映えるエレガントな老紳士だ。 あんな風に年をとりたいものだと思う。見ると、 たった1人立っている老紳士のすぐ横の、シルバーシートに、 1人の若い女性が座っている。学生服ではないが髪型から見て、 学生さんのようだ。 「遠慮せんで良いのよ、そこはシルバーシートなんやから」 くだんのご婦人が、いらついて念を押す。 老紳士は無視して前を向いたまま。 女学生が、ムズムズと動いたが立って譲る気配は無い。 ……さあ、大変なことになった……。 聞こえよがしのヒソヒソ話が始まったのだ……。 とてもひそひそ話とは思えない様な……。 「なんね、あの態度。図々しい娘やねぇ(-_-)」 「大抵、ここまで言ったら譲るよねぇ……(`´)」 「近頃の若い者は何考えてるのかねぇ<`ヘ´>」 「親の躾の問題よ(ー_ー)」 「ちょっと、あんた達、聞こえるよ(゜_゜>」 「いいのいいの、聞こえる様に言ってるのよ(;一_一)」 「このくらい言わんと、わからんと……<`ヘ´>」 女学生が肩をすぼめるようにしてムズムズと動いた。 立って譲るタイミングを失してしまったのだ。 聞こえよがしの老人たちの声は聞こえているはず……。 肩の動きが反抗的な動きに見えない事はない……。 「厚かましいねぇ……(-。-)」 「ほんと、親の顔が見たいよ……( ̄^ ̄)」 「しぶとい娘やねぇ………ホント……(゜_゜)」 シルバーシートの前2つに座っていた老人達も振り向いて、 ジロジロと無遠慮に睨んでいる。女学生は下を向いてしまった。 一種の集団心理が働いているのかもしれないが、 その場に居て、あまり心地良い光景では無かった。 「こちらにお座りになりますか……?」 思わず声をかけた。自分の方が若いから失礼でもあるまい……。 「いえいえ、良いんですよ。ありがとうございます」 と、仕切りの女性が前から本人に代わって返答してきた。 当の老紳士は振り向いて軽く会釈を返してきた 「ねぇー、こんなご親切な方もおられるのにねぇー」 「あきれてモノが言えんわ」 「本当に、今時の教育はどうなってるのかねぇ」 この老人集団にも良い気分はしなかったが、ここまでくると、 頑固に譲らない女学生にも少々腹が立ってきた。 顔は見えないが意地になっているのかもしれない。 そうこうしているうちに福見にバスがついた。 「それじゃーお疲れさーん」 「どうも、どうも…………」 後ろの方に、2人だけを残して仕切りの女性、 立っていた男性以下全員下車して行った。 例の女学生の顔を、わざわざ不躾に覗き込んで、 互いに目を合わせ、そして頷く様な仕草をして そそくさと降りていった。 女学生は、前の手すりを持った両腕に顔を埋めて 下を向いている…………。 車内が急に静かになった。 運転手のホットした様子が発車案内の声に篭っている。 ……そして、発車は相変わらずガックン、ガクン。 次のバス停とその次で、ほとんどの客が降りて、 残りは話題の女学生と、ゲートボールの老婦人2人、 それに私だけとなった。 そろそろ城見峠だ。 ―――「ピンポーン」例の女学生が押した。 次で降りるらしい。 少し気持も落ち着いたのか窓の景色を眺めている。ややあって、 城見峠のバス停に到着……。プッシュン・ガクッと止まる。 何の気無しに見ていると、到着と同時に前の降り口から、 中年の男性が乗ってきて運転手に何やら言って頭を下げている。 例の女学生…………着いたのになかなか立たない。 いや……、立てないみたいだ!! 両手で手すりに登るような形でやっと立った。 乗ってきた男性が手を貸す。 何と! 彼女は左足に重度の障害を負っているではないか……。 ええっ? ウソ………! 乗る時、どうやって乗ったんだろう? 歩行が極度に困難だ……。迎えはどうも父親らしい。 だとすれば、きっと送りの人も居たに違いない。 どう見ても、一人での乗車は困難だ。 そうすると、運転手はこの事を知っていたのか……? じゃー、さっき、どうして助け舟を出さなかった? いやいや、人の事は責められない。 自分だって身体障害者である可能性を 気付きだにしなかったのだから…………。 前の、老婦人2人が顔を見合わせている。 緊張した顔で私の方にも振り向いた。 「ひゃー、まさかねぇ……」というような顔に見えた。 何度も運転手に頭を下げて降りた2人。 バスの下で支える女性。……母親のようだ。 横に車椅子が置いてある。 ………どんな事情か知らないが、この娘にとってのひとり旅は、 ひとつの冒険的な外出だったに違いない。 大変なことをしてしまった。 人の人情に触れておれば、より前向きになれただろうに……。 もう、一人で外出するのはいやだというだろうな。 ……気付かなかった自分。 ……勘違いした自分が恥ずかしい。 見えなかったとはいえ、あの席は、 「お年寄り……」 「……及び身体の不自由な方」の 優先席ではないか…………。 性善説で考えれば座っている若者は、障害者に違いないはずだ。 他に幾つも席が空いてるのに、あの席に座っていたではないか。 ―――思慮が足りなかった。 ―――取り返しのつかない事をした。 無念の思いで前を見たら、バックミラーで運転手と目が合った。 急いで目をそらす運転手。 そして、ガクンと発車。 自分に腹が立って仕方がない。 ちょっと落ち込んでいるうちに次の停留所。 軽く、会釈して例の2人の老人が降りていった。 同じ思いが、後ろ姿に見てとれる。 出来る事なら謝りたい……。 そんな気持ちだろう。 今でも、無念さがこみ上げてくる苦い想い出である………。 <requestに応えてrenewal up> 人気ランキングに参加しています。良かったらお願いします。 にほんブログ村 ====================================================== ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 14年間蓄積した本ブログの一部を抜粋して本にしました。 『愛ことば・心の散歩路(ビジネス編上巻・中巻・下巻)』です。 それぞれ200円です。(^-^) AMAZON公式サイトで「愛ことば」で検索して下さい。 良かったら、どうぞ。よろしく、お願いします。 『愛ことば・心の散歩路(ビジネス編上巻・中・下巻)』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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