《ある戦乱後の京》






《京の町外れ　闇黒寺》




[パカパッ　パカパッ　パカパッ　パカパッ　]

「一体さん！～　一体さん～」



（チッ　品川新左衛門ヤツ　また来やがった　
　　　　一応お目付け役だから　ここはひとつ　笑顔笑顔と）
「あっ　新左衛門さん　おはようございます」

「一体さん　おはようでござる　早速で悪いのですが将軍さまがお呼びで」

（また　あの糞じじい　人を呼びつけやがって　死ねばいいのに）
「ハイ　今　和尚さまに　許可を　頂いて参ります」



《将軍の政務所　珍閣》



「一体どの　ご苦労である」

（相変わらず　貧相な野郎　近いうちの倒幕してやろうっと）
「将軍さまも　お元気そうで　何よりでございます」

「うむ　今日は　一体どのに　相談があるのじゃ」

（また　タダでひとを使いやがる　チェッ）
「ハッ　何でございましょうか」

「実は　夜な夜な　虎が逃げ出して困っておる　何かよい智恵はないか？」






（あんな所に　虎の衝立なんか　置きやがって　絵の虎を何とかしろってか！）
「虎でございますか　将軍さま」

「そうじゃ　虎を何とか　逃げぬようにしたいのじゃ」


（子供だと思って　バカにしやがって　絵の虎　捕まえろだと～　
　昔　うちの先祖が　あんたらに逆らったからって　嫌がらせにも程があるぜ）
「わかりました　少しお時間を」

「うむ　頼んだぞ　一体どの」

（見てろよ～　糞将軍！　我輩の頓智でギャフンと…）
　　　[ポクポクポクポクポク　チーン]
「わかりました　将軍さま！」

「これだけの説明で　もうわかったのか　一体どの　さすがじゃ」

（バカじゃ　コイツー）
「ハイ　では　将軍さま　庭に虎を　追い出してください！！！」

「・・・・・・？？？」

（困ってる困ってる）
「庭に虎を　追い出してください！！！」

「一体どの　意味がわからぬが…」

（やっぱ　バカ）
「早く　将軍さま！！！　早く」

「それで　本当によいのか？　一体どの」

（出せるものなら　出してみろよ）
「ハイ　将軍さま　私が　逃げないように　縛りあげます」

「よし　わかった一体どの　助けが要るときは　呼ぶのじゃぞ　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　おーい　誰かー　虎を放て」


（絵の虎に　助けネ　ハイハイ）
「助けなど無用です！　いざー」








[ゴルルル…]


（ゲッ）
「？？？？？」


[ガアァアォオーー]


（ゲゲッ）
「※▲☆＊＄％＃＊∴♂♀＄」




「わああああああぁぁぁぁぁっぁああー」

「これ　一体どの　どこへいくのじゃ　捕まえるのではないのか」

「うぎゃーああああああぁぁぁぁぁっぁああー」
　
「虎のオリの鍵が上手く　閉まらんので　一体どのなら
　なんか工夫をしてくれると　思って呼んだのじゃが　
　これは　オリの修理と　どう関係あるのかな　一体どのー」

「うげっ　うがっ　ひぼっ」

「一体どの　ゴキゴキ　嫌な音がしておるが　助けはいらぬのかー」　

「ぅ…　ぅ…　」

「おーい　一体どの～～　一体どの～～」





　　　　　　　　　　　嗚呼　禅の修業は　命懸け　
　　　　　　　　　　　　　　南無　釈迦牟尼佛　

　　　　　　　　　　　　一体さん～虎退治の巻～


　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　おわり


登場人物解説
　
一体＝　
　　　　一体豊潤。　高貴な生まれながら　理由あって親元を離れ
　　　　闇黒寺で修行するプチ坊主　
　　　　早く親から離されたため　性格が少し屈折していて　
　　　　他人を信用しない　顔は笑っているが　心はいつも　ブルー
　　　　しかし　後に日本屈指の名僧となる　　
　　　　特技　頓智　　　　　　　　　　

品川新左衛門＝
　　　　京の寺社奉行。将軍の命令により　一体を監視する役目
　　　　年の離れた一体をなぜか尊敬している　とってもよい人

将軍＝
　　　　海驢賀幕府三代将軍　　海驢賀　好満。
　　　　幕府安定のため　心ならずも　一体を出家させたひと
　　　　一体の行く末を案じる　とってもよい人