急所を打たれ　うずくまった王は　
　　息が出来るようになったのか　やっと声を上げた　

「うぅっ…」　

　　王は　胸の下の辺りを押さえながら　黄飛雀を睨み付ける

「あなたの拳は　動きが硬いし　進攻が単調すぎる
　一度手を出したら　躊躇なく　三度　打ち込むべきです」

「うっ…　なっ、何を！」

「わからないのでしたら　お見せしましょう　来！！」

「黄！　テメェーー！」

　王は技など　おかまいなしに　拳脚を　繰り出した

「三度花開！」「三花月！」　「三色三弾蜂！」

　　飛雀は　電光のような速さで三度ずつ　九度　王を　打った
　　王は　後ずさりすることもなく　再び　その場に崩れ落ちた
　　身体に沁み込むように効く拳は　演劇のように後方へ飛ぶような事は無い

「三は陽数　攻めもまた陽　九は陽数の　長　
　その陽を支えているのが陰なのです
　決して　それは弱々しいものではないのです
　本来　陰陽両儀の変化の無いところに技芸などありません
　天地の理に背いては　何事も存在できないのです
　あなたは　剛・硬に偏りすぎてます
　そして　硬いものもまた　生の理に背いているのです
　天地を御覧なさい　この世で　硬いものはみんな死んでいる」

「うるせぇー　説教する気か！　俺は　鉄牛王だぞ！
　　　　　　俺は　今まで誰にも負けたことなどねぇぞ」

「それは　あなたが　ただ　身体に恵まれていただけです」

「ヤイ　黄飛雀！　次は　兵器で勝負だ！
　　　　　　　　俺様の　櫓募棍の　餌食にしてやる」

　　そう言って　王は馬から　太い棍棒を引きずり下ろした

「無駄です　拳で勝てないものは　兵器でも無理です
　兵器は手の延長に過ぎないのですから…
　では　私は　剣ではなく　この扇でお相手いたしましょう」



　　そう言って　飛雀は　鉄の扇を開いた

「なめやがって！！！」

「くらえっ！　動乱蜂！」

　　王は　手にした棍を蜂の群れを追い払うが如く
　　風車のように回しながら　飛雀にせまる
　　そして　身体を旋転させ　飛雀の脚を払った
　
「ハイ！彩球飛舞！」

　　飛雀はまるで白鷺が舞い上がるかのように　身を躍らせ
　　王の　眉間を扇で　打った
　　振り向いた王の眉間は赤黒く腫れている

「フン！龍王冠！」
　
　　怒りに狂った　王は　頭上に構えクルリと廻すと
　　棍を飛雀の頭めがけて　振り下ろす

「日景三傘！」

　　飛雀は　連続して襲い来る王の棍を　身を左右斜めに避けながら　
　　扇で三度　頭を覆ってこれを避けた

　　この技の伝承は元々佛家の門派に伝わる　
　　釈迦三尊　つまり　釈迦　普賢　文殊　
　　の三尊に傘を差し出すという意味である
　　これは　以前　遊学中の飛雀が　
　　嵩林寺の兆灯和尚から習った剣の技であるが
　　武技に精通すれば　扇ですら剣と同様に使えるものである　


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく

解説

兵器＝武器
棍術＝棍棒を使った武術