その日は　クリスマスイブ
ある街の片隅で
可哀相なアンソニー　ウィルソンは吠えていた

「なにが　クリスマスだ！　くだらない
　どいつもこいつも　楽しそうな面しやがって！！」

アンソニー　ウィルソンは　一月ほど前に事業に失敗して
いわゆる　無一文になった　それは機嫌が悪いのが当然だ



今日は　クリスマスイブ　彼は神に願い事をした・・・

「もう　俺は生きるのが嫌になったんだよ
　もし　神様が　いるっていうんなら…
　聞こえてるなら　この俺を天国とやらに連れてってくれよ」

そういいながら　アンソニー　ウィルソンは　
路地裏の非常階段を　フラフラと手摺に掴まりながら登った

事業に失敗しただけなら　アンソニー　ウィルソンも
こんな馬鹿げた願い事はしなかったろう　

死にたいなんて

可哀相なアンソニー　ウィルソン
彼がが信じていた　最愛の恋人 キャスリン・ミラー　
債権者の人波に紛れて　少しばかり残った彼の現金と時計ともに　
彼女は彼の前から姿を消した
それは三日前の話である



とうとう　非常階段の一番上の踊り場に着くと
アンソニー　ウィルソンは　酒臭い溜息を　ひとつ落とした

「願いごと　かなえてくれるのがアンタの仕事だろう？　
　何で俺だけ　こんなに不幸なんだよ　クリスマスだってのに・・・
　死んでやるよ　自分で・・・・・　　　何が神だ　この馬鹿野郎！！」

そう言い終わると　はるか遠くの空をみつめた

少しの時間が流れたあと

「神様なんて　いないんだ　何処にも　・・・・」

そう呟き　彼は静かに手摺に手をかけた


アンソニー　ウィルソンが　非常階段の手摺を乗り越えようとした
そのとき　風が起った　
ここはビル街だ　風ぐらい起こる　そう単なる偶然だ

風は　落ちていた　新聞紙を躍らせ　天高く舞い上げた
そして　最上部の踊り場あたりまで　持ち上げると　風は　
パイ投げのように　アンソニー　ウィルソンの顔面に
その新聞紙を　投げつけた

「うっぷ　あー　風まで　俺をバカにしやがって！！　」

アンソニー　ウィルソンは地上ではなく　階段の踊り場のほうへ転げ落ちた

本当に　彼はついていない男である　
確かに　この瞬間まではね・・・

アンソニー　ウィルソンは　ふと　顔から剥いだ　新聞紙面に目をやった
そこには　蝶がとまっているように　紙切れがいた

「なんだ　これ　ロトくじ・・・」

言ったように　彼は　もうすでについていない男でない
その紙切れを蝶でも捕まえるように捕獲したあと
それがはずれ券だろうと思っても
捨てずに　手に持っていたのが　その証しである　偉い

そして　紙切れがとまっていた　その下の新聞紙面には
紙切れに書かれたのと同じ番号が当選番号として
さも　当たり前のようなことのようにに掲載されていた
　


　
時の　過ぎるというのは速い　
おやおや　もう　あの日から五年の歳月が過ぎた


アンソニー　ウィルソンの拾った当たりくじは
不思議な事に何の問題もなく
彼の手の中に　当選金を雪崩れ込ませた
きっと　本来の当選者がいるはずなのに

まあ　たぶんそれは
当選金が　全身痙攣を起こして死んでしまうような
天文学的数値ではなく
太陽にやられたご婦人がおこした軽い眩暈程度の
金額だった為かもしれない

とにかく　
アンソニー　ウィルソンは　その金で
残った借金を清算すると
懲りもせず　また　事業を立ち上げた

説明しておくが　彼は子供の頃からホットドックが好きである


彼のはじめた　新しい事業は小さな　ホットドック店




まだ店が小さな頃に知り合った美しい女性と結婚し
彼の宝物である少しおませな娘と一緒に暮らしていた

そして　アンソニー　ウィルソンの邸宅のプールでは
夏には　カモノハシに似た犬が泳いでいる

そんな暮らしを手に入れていた


彼は　何度もいうが　今はついてない男ではない

彼のはじめた小さな店は
見る見るうちに　有名になり
今や　全米に展開する　大型チェーン店となって
来年には　日本に１号店を出す計画まで出ていた　

アンソニー　ウィルソンは　今　とても幸せだ
五年前には死にたいなんて願ってた男だけれど・・・

　


　つづく…　Ｍｅｒｒｙ　Ｃｈｒｉｓｔｍａｓ！





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