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2005/12/24
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カテゴリ:灯屋小劇場



その日は クリスマスイブ
ある街の片隅で風に吹かれて
可哀相でも 幸せでもない
アンソニー ウィルソンは目を覚ました 

「ここは・・・・ 天国か?」

目覚めたアンソニー ウィルソンの目に映った物は
非常階段の踊り場に仰向けになって見上げる空だった



「Mr.ウィルソン ご機嫌はどうかな?」

覗き込んだ ニコラスを見て驚いたアンソニー ウィルソンは
撃たれた胸を手で押え飛び起きた
 
そして 恐る恐る 胸から流れ出しているであろう
自分の血液の量を確認するため 手を胸から離した

掌はアンソニー ウィルソンの恐怖の期待を裏切り
綺麗なままだった

「傷がない? 私はまだ生きているのか」



また 細身のタバコに 黒いライターで
火を点けて ニコラスは言った

「Mr.ウィルソン まだ 死にたいかね?」

「だから さっきから 私は死ぬのは嫌だって 言ってるじゃないですか!」

「そうかい それなら OKだ」

「もう 私は死ななくていいのですか?」



ニコラスはそれには答えず 
目を細め 両手をコートのポケットに突っ込んだまま
タバコをくわえた 口の隙間から 煙を吐いた

「Mr.ウィルソン キミが手に持ってる新聞を見てご覧」

「これ? ですか?」

アンソニー ウィルソンは手に握り締めている
新聞紙に目をやった

「これは五年前の あの新聞?」

「五年前? 五年前じゃないさ それは今日の新聞さ」

アンソニー ウィルソンが日付を見ると
確かにあの吠えていた年のクリスマスイブの日付だった

「今日? ちゃんと五年前の日付ですよ」



アンソニー ウィルソンは 自分の姿を確認した

そこには さっきまでの高級スーツに身を包んだ彼ではなく 
薄汚れたジーンズと擦り傷だらけ牛革のブルゾンを着た
アンソニー ウィルソンがいた

「あの日の服のままだ どうなってるんですか?」
  
「キミが手摺から落ちてから まだ八分しか経ってないのさ Mr.ウィルソン」

「でも 私はあなたのことを知ってますよ ニコラスさん!
              一体 私に何をしたんですか?」

「だから 俺は Mr.ウィルソンの願いをかなえるよう
         ボスに言われてここへやって来ただけさ」

「私の願い事? それって死ぬことじゃ?」

「そうじゃない キミの本当の願いさ」

「本当の?」

「ん? さっきから この非常階段で願い事してたろ
         『生きたい 神のお導きを・・・』って」

「いや 私は ・・・」

「Mr.ウィルソン
 願い事は 口でするものじゃないんだよ
 キミが心の中心で強く願ってるその思いを
 うちのボスは お聞きになるのさ
 だから ボスは俺を使わしたのさ 君のもとへね」


「じゃあ 今まで私が見てきたものはなんなんです?
 私のあの妻や娘や 会社・・・全部 夢だったのですか」

「さあ 夢かも知れない・・・
 だが
 辛い事 楽しい事 悲しい事 嬉しい事
 人生に起こる出来事自体が 
 夢でないと どうして言い切れる 
 たとえ夢だとしても
 キミと暮らしてた彼女達は 
 キミを 死から救ってくれたじゃないか
 キミの魂は彼女達と今もつながっているさ 
 実在するかどうかの問題でなく キミの愛すべき人達さ」

ニコラスの話を聞きながら
アンソニー ウィルソンは
彼女達がそう遠くない時間の流れの向う
この実在の世界のどこかで
自分ことを待っていてくれるような気がしていた




彼は手に持った新聞がなぜか気になりだし
新聞を広げてみた
何気なく目線を下げて行くと 
彼は紙面右端の隅の小さな囲み広告に目を止めた

{従業員急募!
 ホットドックに愛情をそそげる人 リーチャード・ホットドック店・・・}

アンソニー ウィルソンは 何か思う所があるのか
その囲み広告をじっと見入っていた

ニコラスは 漂ってゆく タバコの煙を眺めながら
アンソニー ウィルソンに向かって口を開いた

「実はその店のオーナー
 Mr.リチャードが作る
 ホットドックは最高なんだが
 彼ははもう年で
 手伝いがいるそうなんだ
 そして彼は
 うちのボスに願いをかけたのさ
 店の後をついでくれるような
 ホットドック好きに会いたいとね
 よく働いてくれる者なら 
 誰でもいいそうだよ たとえ一文無しでもさ
 Mr.ウィルソン  キミはホットドックは好きかい?」

アンソニー ウィルソンは静かにうなずいた




「キミへのクリスマスプレゼントは 
 ちゃんと渡したからね 
 Mr.ウィルソン
 じゃあ 俺は忙しいから もう行くよ」

ニコラスは 短くなったタバコを 投げ捨て
吸殻が 春の雪のように消えると
アンソニー ウィルソン背を向けて 歩き出した



「あっ ちょっと待って ニコラスさん!
 あなたは 一体なんなんですか?
 普通の人間じゃないでしょう」

「ああ 俺かい 
 俺は
 あそこの看板の描いてある アレさ」

振り返ったニコラスが指さした ビルの上の看板には
赤い帽子に 赤い服を着た 白いヒゲの老人が描かれていた

「あれって サンタクロースですよ
 サンタなのですか? あなた?
 でもあなた 真黒ですよ上から下まで
 プレゼントの袋も持ってないし
 トナカイも ソリもないし 
 サンタクロースには見えませんけど」

「ソリ? おい 車でいいだろ 雪も積もってないのに・・・
 まったく 俺を あんな ジジイにしやがって
 どっかの センスのない  コーラー屋のせいだがね
 見てみなよ あの品性のない格好 いかれてるね まったく
 俺は昔から 黒なんだよ 黒
 黒い服で 黒いMini Cooperに
 乗ってやってくるものさ サンタってのはね
 そして いつも持ってるのはこの書類カバンだけ 
 本当のプレゼントというものはあんな袋には入りきらないさ
 もちろん煙突からも入ったりしないよ 汚れるのは嫌だしね
 だいいちあんな派手な格好じゃ 目立って仕事にならないよ」


「あの ニコラスさんが もし本物だったら
       神様に謝っといてもらえますか」

「もちろん本物さ
 だけど その必要はない
 もう ボスには 聞こえてるよ 
 うちのボスは 全部知ってて
 全部自分で出来るのに 
 俺たちにやらすんだから 
 おっと 次へ 急いで行かなきゃ
 じゃあね    Mr.ウィルソン」


「ニコラスさん!」

「なんだ まだ何かあるのか 俺は次の仕事があ・・・」







「メリークリスマス・・・ ニコラスさん」





 
「・・・・

 ああ メリークリスマス     Mr.ウィルソン」














今日はクリスマスイブ

忙しい男 ニコラスが 次に急いで向かった先は

それは 願いをかけたあなたの ところかもしれない・・・・














  erry hristmas!







おしまい

 








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最終更新日  2011/12/24 10:04:13 PM
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