《ある戦乱後の京》







《京の町外れ　闇黒寺》





「まったく　正月だというのに　クソ和尚のヤツ　
　町じゃあ　晴れ着きて　みんな浮かれてるてのに
　寺の修行に正月などない！　とか言いやがって　
　我輩は裏山に柴刈りかよ　あーあーヤダヤダ　　

　うがっ！　痛て～　
　痛てえなあ　こんな所に　石なんか　落ちてやがる
　おかげで　もう少しで転ぶと・・こ・・ろ・・だ　
　ん？　石ではないような

　うぎゃあああーー　シャレコウベ～～　
　あービックリした　
　我輩　坊主なので見慣れているが
　急に見るとビックリだな・・・
　まったく　こんな所で行き倒れかよ　哀れなヤツだ・・ね・・

　ふふん♪　いいこと思いついた　
　コイツを　錫杖の先に縛り付けてっと　出来た！
　この杖をを持って　町中を歩き回って　浮かれてる馬鹿庶民どもを
　恐怖の谷底へ突き落としてやる　我輩は六天魔王なり　うへへへっ」








「おー　馬鹿庶民どもが浮かれて大通りに集ってやがる
　よーし　心臓止まんないように用心しなよ　愚民ども！」



〔シャリン　シャリン〕


「わっ！　一体さん　なんです
　それは　骸骨ではありませんか　
　　　正月だというのになんですか」　

「ご用心！」
（うっせえ～～　むかつくんだよ　どいつもこいつも浮かれやがって～）

「うわあああ～～　嫌ああああ～～～」

「ご用心！」
（怯えろ　怯えろ　愚民ども　ほれ　これでどうじゃ）

「きゃああ～～　こっちに来ないで～～～」

「ご用心！」
（何が正月じゃ　この糞ども～～　
　この平和な　元旦を　我輩が破壊し尽くしてやる）

「助けて～～」

「ご用心！」
（ザマアミロ　　ふひょひょひょ　うあー　快感！！）




「何の騒ぎかと思えば　一体さんでは　ありませんか」

「・・・」
（げっ　句京屋！）

「元旦そうそう何を・・　
　げげっ　それは骸骨ではありませんか　一体さん！
　そんなもの持ち出して　町には子供だからって容赦をしない
　気の荒い者もいるんですよ　まったく　何がしたいんですか　」

「・・・・」
（けっ　ただの嫌がらせだよ～　タコ）

「ははっ～　前の橋の一件といい　また何か企んでますね　一体さん」
　
「・・・・・・」
（あれは　お前が勝手に解釈して説法にしただけだろうが　おかげで
　こっちは　町中で　命知らずの頓智小坊主とか　噂されて迷惑なんだって）


「では　わたくし句京屋が　その真意を当ててみましょう」
　　　[ポクポクポクポクポク　チーン]　

「・・・・・・」
（句京屋！！　お前が我輩のネタをやんなよ！！）


「おお　わかりましたぞ　一体さん
　おい　町のみんなもお聞きなさい
　先ほどから　一体さんはみんなに『ご用心！』といってらした
　そして　錫杖の先には　骸骨が・・

　これは　骸骨は【死】というものを意味し
　『ご用心！』という言葉は　正月で浮かれている我々に対する
　戒めの言葉です

　つまり　めでたいめでたいと浮かれているこのときにも
　【死】というものは我々に近づいてきているのです
　我々は【死】というものを常に考え　まさに用心して
　一日一日の暮らしを無駄に過ごしてはいけないのですよ
　そのことを　自覚するには　普段の日よりも
　このような　あえて　めでたい日にこそ
　我々の　心に強く刻み込まれるという事で
　一体さんは　あえて嫌われるような事をなさっているのですよ皆さん」


「そうだったのですか一体さん　ありがたいですの」


「・・・・・」
（おいおい　またかよ！）


「おおお　ありがたや～　一体様～　南無南無南無　…　…」


「・・・・・」
（違うって　お前ら！）



「ありがたや」　「ありがたいの」　「本当じゃ　ありがたいの」


「・・・・」
（正月だけに　おめでたいよ　お前ら・・・）


「ズバリ　当たってるでしょう一体さん！　
　・・・・　一体さん　　　
　ん？　一体さん　なぜ　涙ぐんでるんです？」


「・・・・・」
（興醒めじゃ　興醒めじゃ　コイツら　よってたかって・・）


「はは～ん　一体さん　
　我々が御仏の教えを理解したのが嬉しくて　嬉し涙ですな」


「・・・・・」
（我輩が・・　そんな　いい人な　わけないじゃんか・・）


「いつもながら　一体さんの頓智の利いた
　説法には　まいりますな～　
　さすが命知らずの頓智小坊主　一体さん
　ん？　一体さん　
　なんかおしゃってくださいよ　一体さん」


「うあああああああああああ～～～～～～～ん」
（句京屋の　バカ～～　ひ～～ん）
　

「一体さん～　どこへ　行かれます～～　これ～　これ～」




「母上様～～　母上様～～　ひ～～ん」








門松は冥途の途の一里塚
目出たくもあり 目出たくもなし・・・

一体さん～『一体骸骨』の巻～





おわり




登場人物解説
　
一体＝　
　　　　一体豊潤。　高貴な生まれながら　理由あって親元を離れ
　　　　闇黒寺で修行するプチ坊主　
　　　　早く親から離されたため　性格が少し屈折していて　
　　　　他人を信用しない　顔は笑っているが　心はいつも　ブルー
　　　　しかし　後に日本屈指の名僧となる　　
　　　　特技　頓智　　　　　　　　　　

句京屋善兵衛＝
　　　　京の町の豪商で幕府の出入り商人。
　　　　貧困に喘ぐ町衆には手を差し伸べ、
　　　　仏門に帰依するとってもいい人　
　　　　一体の成長を陰に日向に見守っている。