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2006/12/22
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カテゴリ:灯屋小劇場



その日は クリスマスイブ
可哀相なトーマス・チャーチルは
街を見下ろす ある丘の上の教会へと続く坂道を
慣れない杖を突きながらゆっくりと上って行く

彼は人の気配を感じると丘の教会への
進路を補正してもらいながら
やっとの思いで教会にたどり着いた

彼はどうしても
この教会で祈りたいらしい

トーマス・チャーチルは
夕日に染まる教会の扉を手で探りながら開き
最後尾の席の背もたれを 片方の手で確認すると
ゆっくりと腰を掛けた

明り取りの窓から差し込む夕日は 
斜めに美しく 光の線を織り成していたが
今のトーマス・チャーチルには
まったく関係のない出来事だった




今日は クリスマスイブ 彼は神に願い事をした・・・

「どうか 神様 キャシーが・・・ 
 彼女が 本当の幸せをつかめますように」

そう心の中で 呟きながら 胸の前にしっかりと組み合わせた
彼の両手は 風が通り抜ける 野草の葉っぱのように小刻み震えていた




可哀相なトーマス・チャーチルは 
夏が終わりをつげる月のある日の昼下がりまでは
実に 幸福な男であった
彼は 将来を嘱望された エンジニアであり 
とっても美しい姿の彼女もいた

夏が終わりをつげる月のある日の昼下がり
可哀相なトーマス・チャーチルは
彼の働く研究所で実験の最中
振り切れたメーターの数値を確認した
この数値こそが彼が目にしたこの世界の最後の映像である

事故は彼の身体を三ヶ月ベットに横たえさせ
そして 彼からすべての光を奪い去った
そう すべてだ



教会の向こうに見える西の山に
夕日が姿を隠す頃
教会の外の中庭には
子供たちの歌うクリスマスキャロルが流れ出していた

トーマス・チャーチルは
自分のこれからの孤独と絶望を頭の中に巡らせながら
ずっと椅子に嵌りこんでいた

ふとその時 教会の扉が開き
風とともに聖歌隊の歌声が流れ込んできて
扉の向こうから 一人の人影が現れた
その人影は ゆっくりと近づいてきて
トーマス・チャーチルの椅子の後ろに立ち止まると
そっと彼の肩に 細い指先の手を置いた

トーマス・チャーチルはその懐かしい指先の感触に
頭を上げると その見えない目で確認しようと
後ろを振り向いた

「トム・・・ 探したのよ・・・」

その細い指先の持ち主は
トーマス・チャーチルの愛する
美しい姿の恋人 キャサリン・ダントン
その人であった

「キャシー! 君なのか? どうしてここに?」

それには答えずキャサリン・ダントンは
彼の閉じられた瞳を見つめながら悲しげな声で彼に語った

「どうして 突然 姿を消したの?」

「それは・・・」

トーマス・チャーチルは
多くの言葉の中から 最適な言葉を選び切れず
少しの時間沈黙した

「私のことが嫌いになったの トム」

「そんなことはない! 僕は今でも君のことを愛してる! ただ」

「 ただ 何?」

「ただ 僕はもう以前の僕じゃない・・」

「どこが 変わったのよ あなたは 何も変わってないわ」

「変わったさ 僕には・・・ 
 僕にはもう君を守ってあげることなんてできない」

「トム・・・」


トーマス・チャーチルは前へ向き直ると
独り言のように話を続けた

「そうさ 君がこの先僕と一緒にいても 
 ろくなことなんかありゃしない
 そうだろ もうこれからずっと 
 この杖がだけが 僕の友達さ
 もう研究も続けられない もう何も僕にはできない
 もうお先真っ暗さ・・・
 ふふっ 笑えるだろ 本当に真っ暗なんだ
 闇の中で 君の声だけが響いている」

「トム・・私は・・」

不幸なのか幸いなのか彼女の頬を滑り降りてゆく
涙の粒は 彼には見えない



「ホラ 君は 美人だろ
 君ならそこらの男が放っておかないよ 
 誰かと幸せになれる機会はまだいくらでもある
 キャシー 僕は 君の幸せの邪魔をしたくないんだ」

もう一度 トーマス・チャーチルは彼女の方を振り向くと
少し苛立ったように そう言った


「なんで そうやって
 一人で悩んで 苦しんで ひとりで勝手に決めちゃうのよ
 トム あなたバカみたい
 ねえ 私はあなたにとって何?
 美人?
 そう ありがとう 褒めていただいて 光栄だわ
 結局 あなたは私の姿かたちにしか興味がなかったのね
 私達の関係って そんなものだったのね
 よくわかったわ・・・ 
 じゃあ あなたには
 もう 私は用無しね さようなら」

彼女はそう言い残して 教会を飛び出した

扉に向かう キャサリン・ダントンを
引き止めようとした トーマス・チャーチルの手は
辿り着く先を見つけられないまま 虚しく彷徨った・・・
 






つづく… Merry Christmas!





セント・ニコラス ~街の灯~ 第二夜







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最終更新日  2011/12/24 09:40:56 PM
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