その日はクリスマスイブ・・・

可哀相なトーマス・チャーチルは　
飛び出したキャサリン・ダントンの姿を見つける手段もないまま
彼女を追いかけて　やっと見つけた教会の扉から
外へと出た

もう辺りは　夜の色になっていた
もちろん　そんなことは
もう　トーマス・チャーチルには関係ない

教会に集まったひとびとは　
手に手に揺らめくキャンドルの灯を持ち
来るべき時を祝っていた

その人ごみの中を　
トーマス・チャーチルは彼女の名前を何度も叫びながら
長い間彷徨い　何度も転んで　とうとう動く気力さえ失い
芝生の上に這いつくばった


可哀相なトーマス・チャーチルは
自分がつまらぬ意地を張って
外の光だけでなく
心の光まで　失おうとしていることに
やっと今　気がついた

人の心に宿る恐怖というものは
時に本当の気持ちを押し隠そうとするものだ





トーマス・チャーチルが最後に転んだのは
中庭の隅の人気のない　闇の中だった

そのとき
闇の中から　真っ黒な男が現れた
黒いウールのロングコートを羽織り　
黒い帽子を深々とかぶっている
黒いヒゲ面の男だ

「やあ　Ｍｒ．チャーチル　ご機嫌は如何かな？」

そう言いながら　男はトーマス・チャーチルのなくした杖を
どこからか見つけてきて　彼に手渡した

「あっ　ありがとうございます・・・
　どうして　わたしの名前を？
　あの　あなたは一体どなたですか？」

トーマス・チャーチルは声のする方へ向かって尋ねた

「ああ　俺かい　俺はサンタクロースさ」

そういいながら男は立ち上がると
黒いロングコートの内ポケットから
黒い細身のタバコを取り出すと黒いライターで火をつけた

「サンタクロース？　
　はははっ　忘れてました
　そうですね今日は　イブでしたね
　どなたか知りませんが　ご親切に」

トーマス・チャーチルはそう言って
ゆっくりと立ち上がった

「ああ　それと　Ｍｒ．チャーチル
　君がなくしかけた
　もう　ひとつのもの見つけといたよ」

「なくしかけた　もうひとつのもの？」

黒の男はタバコの煙を吐き出すと　こう言った

「Ｍｉｓｓ．ダントンへの君の想いさ」

トーマス・チャーチルは最初
黒の男が何を言ってるのかわからなかった

「Ｍｉｓｓ．ダントン？
　ダントンって
　キャシー！
　あなたは　いま　キャシーが何処にいるか
　知っているのですか？！」

「ああ知ってるよ　
　向こうの展望台のところで君を待ってるよ
　だから　俺は　君を迎えに来たのさ
　じゃあ　俺が展望台まで連れてってあげよう」

トーマス・チャーチルはこの黒の男に少し警戒心を持ったが
今は彼女に会える可能性の方が大切なので
この男について行くことにした

黒の男は　彼に自分の肩をつかませると
前へ歩き出した　不思議なことにトーマス・チャーチルは
歩いている感覚がなく　まるで宙を飛んでいるように
前へ進んだ





やがて　展望台が近づいて来たとき
黒の男は　トーマス・チャーチルにいった

「素顔の心で・・・」

トーマス・チャーチルが意味を問おうとしたとき
彼を呼ぶ声がした

「トム！」

トーマス・チャーチルはその声を聞いたとたん
掌から黒い男の肩の感触がなくなり
よろけて転んだ

それを見てキャサリン・ダントンは
あわてて彼に駆け寄って行った

「トム！　大丈夫？」

そう言って
跪いた彼女は両手で彼の頬をそっと包み
彼の顔を見つめた

「さっきは　ひどいこと言ってご免なさい」

それを聞くと
トーマス・チャーチルは
首を横に振り
そして彼女の手を頬から離し
その手をしっかりと握った

「違う　悪いのは　僕さ　キャシー　
　本当は　僕は怖かったんだ　
　君の方が僕から離れて行くんじゃないかと
　だから　あんなこと　ごめんよ　
　キャシー　僕は　キミのすべてが愛しい
　キミのすべてが　キミが一番大切なんだ」

「トム　私だって　あなたが大切なのよ
　あなたが姿を消してから　
　私　毎日　神様にお願いしたわ
　私を　私の一番大切な人のそばへお連れ下さい
　愛するトムに会わせてくださいって
　ねえ　トム
　私じゃ　あなたの力になれない？
　あなたの　光にはなれないの？」

「キャシー　僕は気づいたんだ
　もう　太陽に光は失ったけど
　もっと　明るい光が僕には
　降り注いでいたことを
　僕の心を明るくしてくれているよ
　君はもう僕の光さ　眩しいくらいのね
　ねえ　キャシー・・・
　ずっと　そばにいてくれるかい？」

「はい・・・　トム」

彼女の頬を滑り降りてゆく
涙の粒は　彼の肩を濡らし
二人が抱き合う姿の影絵を
街の灯がやさしい色に染めていた








つづく…　Ｍｅｒｒｙ　Ｃｈｒｉｓｔｍａｓ！





セント・ニコラス　～街の灯～ 最終夜へ