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2006/12/24
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カテゴリ:灯屋小劇場



その日はクリスマスイブ・・・・

礼拝堂の真ん中で さっきの黒の男は
不謹慎にもタバコをふかしている

吸い終わった 細身の黒いタバコを教会の床へと投げ捨てると
その細身の黒いタバコは 半回転して地上にたどりつき
春の雪のように 消えてなくなった

さらに不謹慎にもポケットから黒いシガレットケースを取り出すと
二本目の黒いタバコにライターの炎を近づけた

ご紹介が遅れた この不謹慎な男 
名は ニコラス
この季節なると 黒いMini Cooperに乗ってやって来る
誰もが子供の頃に一度は会ったことのある男






「教会なんてこんな箱 
 役に立つことなんてあるのかとずっと思ってたが 
 あの二人の新しい始まり場所としては悪くない」

そう独り言を呟くと
ニコラスは 煙を深く吸い込み ゆっくりと振り向くと
礼拝堂の祭壇の方へ靴音もさせずに近づいた

そして 少し眉を寄せて
色の薄れた 白い煙を吐き出すと
祭壇に掲げられた
かの偉大な預言者が十字架に架けられた姿の像を
見上げながら また呟いた

「しかし あれだな イエス様も まったく 気の毒なもんだ
 地上じゃ 未だに 貼り付けにされたままだよ 
 それに 皆は知らんのだろうが 
 似てないんだな これ 
 本物のイエス様は もっと こう きりっとしたいい男だぜ」

そういいながら タバコを口に銜え直すと
少しタバコの煙が目に沁みるのか
少し目を細めて
黒い懐中時計を取り出すと
開いて針を見た

そして ポケットから黒いスケジュール帳を
取り出し 指で文字をたどりながらなにやら確認した
そのあと
抱えた黒い書類カバンの中に手を突っ込み
そこから2枚の書類を取り出した

「えっと これだ
 『どうか 神様 キャシーが・・・ 
 彼女が 本当の幸せをつかみますように』
 Mr.チャーチルの願い・・・ 職務完了
 そして 
 『私の一番大切な人のそばへお連れ下さい』 
 Miss.ダントンの願い・・・ これも 職務完了」

そういいながら 二コラスは取り出した黒いペンで
書類にサインをした

「まったく この時期になると 願い事が多くて困る
 まったく いくら神様だからって
 うちのボスも 人使いが荒すぎるさ
 さてと 次 行くとするか」

ニコラスは書類をカバンにしまうと
くわえたタバコを手に取り
一度 深く吸い込んで
教会の扉へと音も立てずに歩いて行った

「じゃあね 痩せ過ぎのイエス様
 はやく仕事が終わってそっちへ 戻れるように
 ボスに よろしくね」

預言者の像に背を向けたまま
黒いタバコを持った手を振りながら
ニコラスは教会の外へ出た






ニコラスは教会の外れに停めた
黒いMini Cooperの運転席に座ろうとしたが
シートの上に一枚の書類が置かれているのことに気づいた

「おい なんだ この書類・・・」

ニコラスが書類を取り上げ確認してみると
その書類のタイトルには
《偽大学教授ニコラスの願い・・・》
と書かれていた

「なんだ 偽教授って もしかして俺のことか?
 おいおい 何でこれが俺の願いなんだ 
 俺は 職務が完了したのだから
 もう あの二人にはこれ以上興味はないし
 聞いてないぜ 勘弁してよ
 まったく・・・
 ふふっ・・・  これが 俺の願い事・・・
 ボスも 本当にお人よしだね 
 いや お人よしなのは 俺のほうかな
 はいはい わかったよ もう一仕事ね・・」 

やがて ニコラスは その書類にもサインを済ますと
黒いMini Cooperのエンジンを掛け 
そのエンジン音とともに 夜空を走り去った

イブの夜に
空を渡る鈴の音を聞いたという噂話が
この街中の多くの人の間で交されたのは
クリスマスの朝のことである






ところで
あの二人はあれから
展望台のベンチに腰掛けてずっと寄り添っていた

「ところで キャシー 君はどうして僕が 
 この丘の上の教会にいるってわかったんだい?」

「ああ それは ここまで ニコラス先生に送っていただいたのよ」
 
「ニコラス先生? 誰だい その人」

「えっ あなたの大学時代の恩師でしょ?
 トムから 行き先を書いた手紙が届いたからって
 わざわざ 私に知らせてくださったのよ
 あなたが 先生に手紙を書いたんでしょう?
 見せてもらったけど 確かにあなたの字だったわ」

「キャシー あのね 僕は目が見えないんだよ
 手紙なんか書けるはずがないだろう
 それにうちの大学には ニコラスなんて教授はいなかったよ」

「そ そうね 確かにそうよね」

「で どんな 人だったの?」

「ひげを生やしたひとよ
 黒い服を着て そうそう 昔のギャング映画に出てくる
 FBIの捜査官みたいな格好の人
 そうだ トム さっき 会わなかった?
 あなたを呼んで来るからここで待ってるようにって
 そういえば どこへ行かれたんだろう
 それにしても あなたが一人で歩いてここ来たのには驚いたわ」

「僕 一人? 前に誰かいなかった?」

「トム 一人だったわよ 他に誰かいたの?」

「・・・・・・サンタクロース」

「えっ サンタ?」

「その人自分のことをそう言ったんだ サンタだって
 もし そのニコラス先生って人と同じなら
 そのひとはイブにやって来た
 黒ずくめのサンタさんってとこかな はははっ」
 
「でも あなたに また会えたんだから
 わたしにとっては本物のサンタさんだわ」

「ああ そうだね・・・」





少し冷たいが心地よいそよ風の吹いていた
二人の間には流れたるのは 心だけが会話する沈黙
ふと思い出したようにトーマス・チャーチルが
口を開いた

「そうだ ねえ キャシー
 ここ確か 展望台だったよね?」

「ええ そうよ」

「あのね 街の粉挽き小屋の裏手の樅の樹に
 毎年 パン屋のおじさんが 
 へなちょこなイルミネーションをするんだ
 それが 可笑しいだよ 思い出しても笑える
 永いこと見てなかったな・・・ まだあるかなあ
 キャシー 今夜は僕の代わりに街の灯の中から
 探してくれないか きっと 君の笑い声も聞けるから」

「いいわ わかった
 ふふっ へなちょこイルミネーションね
 えっと うーん
 あっ
 わかった 在ったわ アレね 」

人が話すとき身振り手振りをしてしまうのは習慣のためである
キャサリン・ダントンはトーマス・チャーチルには見えないけれど
遠くの街の灯を指差した




そして トーマス・チャーチルは言った・・・




「違うよ アレじゃない 
 あのパン屋のおじさんは
 あんな綺麗な電飾 使わないさ
 あれだ! あっちの 低いほうの樅の樹
 はははっ 変なの やっぱりへなちょこだ
 子供の頃と同じだよ!
 ほら 見てごらんよ  キャシー!」
 







「!!!! トム!  あなた いま 何て言ったの!」




  erry hristmas!








おしまい








昨年のニコラスさんのお仕事 ρ( ̄∇ ̄o) コレ

セント・ニコラス ~願う男~ 第一話
セント・ニコラス ~願う男~ 第二話
セント・ニコラス ~願う男~ 最終話

 





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最終更新日  2011/12/24 09:49:40 PM
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