|
カテゴリ:BOOK
美しい表紙に惹かれて手に取った
『志賀越(しがごえ)みち』 京都の祇園町に興味のある方が読んでも面白いと思います。 青春時代が蘇ります。 ◇『志賀越みち』 著者・伊集院静さん (光文社・1890円) ◇京都を舞台に切ない恋 1963年(東京オリンピックの前年)の京都を舞台にした長編小説。 東京の大学生・雅彦と祇園の舞妓(まいこ)・真祇乃(まきの)の 切ない恋愛を描いている。構想してから20年。 人生における恋愛の意味を問い、80年代に3年間暮らしたことのある 京都への思いを吐露した力作だ。 「現代において恋愛小説が書きにくいのは実感しています。 現実の恋愛がフィクションを抜いてしまっているかもしれない。 そんな中で、男と女が愛し合って別れるだけの小説を書きたかった。 男女のどちらかが難病で死ぬとか、過去に受けたトラウマに苦しむとか、 そんなよくある設定ではない物語にしたかったのです」 祇園のお茶屋の息子である級友を訪ねた雅彦は、春の建仁寺で真祇乃に出会う。 行動が制約される舞妓と、祇園のしきたりがわからない青年の切ない恋。 携帯電話もインターネットもない時代に、もどかしい時間を経て、徐々に深まっていく。 真祇乃は真情を見せながらも、生い立ちや行動はどこか謎めいている。 雅彦は少しずつ生きることのつらさを知り、世間というものを傷つきながら学ぶことになる。季節の移ろいが美しく、人々の会話が柔らかい。 「京都とは何か。街自体が持っている不思議な力があるのです。 土地の霊といえばいいか。京都には奥があり、そしてまた、その奥がある。 四季がはっきりとしていて、年中、祭りがある。寺社の境内や川のほとりなど、 たたずむ場所がたくさんあるのも魅力ですね」 「私の考えでは、恋愛とはこの世に生きてきてよかった、と思えること」と語る一方で、「恋愛はいつもカネと階級の問題を映し出す」とも解説する。 ゆったりとした端正な文章は、古都を描くのにふさわしい。今年2月に還暦を迎えた。 「60歳になったら、仕事をしようと思っていました。 今までも一生懸命やってきたけれど、人より遊んできたので。 初心に帰って、テーマも文章もみずみずしいものにしたいと思いました」 <文・重里徹也/写真・荒牧万佐行> 毎日新聞 2010年3月28日 東京朝刊 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010.05.08 23:37:23
コメント(0) | コメントを書く
[BOOK] カテゴリの最新記事
|