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テーマ:心にのこる出来事(94)
カテゴリ:冒険少年の憂鬱
続きものですので(1)からお読み下さると嬉しいです。
巡業の旅が始まった。神戸国際を皮切りに、福山、山口と移動し、九州に入る予定だ。神戸の初日、緞帳のはしから緊張しつつ客席を覗いた。古い劇場にお客さんは満席だった。初日の仕事は順調に幕を閉じた。 芝居が終わり、役者さん達と食事に出る。さすが旅回りの多い役者さんは美味しい店を知っていて、安くて美味しい中華料理をご馳走になった。 わくわくドキドキしながら、このグループのなかでは、まだまだ子供としか言えない19歳のボクは、ただただ末席でみんなの話を聞いているだけなのだけれど、それでも大人の世界に少しだけ足をさし入れた気分で、ほのかに上気していた。 デザートは、観音屋という元町のアーケード街の地下にある喫茶店に連れて行ってもらった。店名の通り店に入った正面に観音様が出迎えてくれる店だった。ここのチーズケーキは、とても美味しかった。そして、この店は、後にもこの旅に関わるエピソードがあるんだけど、それはまたの機会に。 何度も訪れている元町の街が、いつもと違う感じがした。 ガード下を歩いても、ふわふわとして不思議な感覚なのだ。 ポートタワーのそばのホテルまで、みんなで歩いた。 桟橋のところで、社中の踊り子さん達が、写真を撮っていた。 「写真撮ってよ」 とその中の1人に呼ばれた。 「いいですよ」 そして、いっしょに写真を撮った。 これから1ヶ月間、この人達と一緒に旅をし生活も共にするんだ。 そんなことを思いながら、シャッターの切れる音が心に響いた。 最初の日にこんな風に食事に誘ってもらい、すこしみんなの事を知ることが出来て、気分が落ち着いたのだけれど、やはり、ホテルに着いても、なかなか眠りにつけなかった。ひとりホテルの窓から高速を流れる車のライトと、明かりの消えたポートタワーをいつまでも眺めていた。 これから、ほぼ毎日移動して、毎日違う場所で公演して、毎日違う宿で寝る。そんな生活をしたことがなかったので、それだけでもワクワクしていた。しかし、それと同時に不安もあった。必要以上に近づいてくる役者さんがいたからだ。団体行動だし、変なことも起こらないだろうと、世間知らずの19歳は、世間を甘く見ていたのだ。 次の公演は福山の市民会館だった。と、ココまで書いてきて、どんな公演の旅巡業に出たのかを書いてないことに気が付いた。「岸壁の義母」と言う歌をご存じでしょうか? その歌のヒットで企画されたお芝居と歌謡ショウのプログラムを山陽方面と北九州方面に25回程持ち回る巡業だった。 福山の公演の時、主役の大御所歌手の調子が少し変だったことに気が付いた。聞くと熱があったようだ。もうすでに、1ヶ月も彼女の公演を見てきた事になるので、少しでも歌や演技に違いがあると、すぐに気が付くようになっていたからだ。 彼女の体調は、明くる日もよくならず、山口県での公演はキャンセルされた。 その朝みんな呼び出され、興行主(その地方の公演を請け負う興行会社)から、主役の方の体調が悪く、その日の興行の中止が言い渡された。その後、 「みなさんもせっかく、ここ山口まで来て頂いたので、今日は1日、のんびりと観光でもしてください」 そして、封筒に入った札束を掲げて 「資金はこちらで用意するので、ご安心を! 秋吉台・秋芳洞でも行ってきてください。バスも手配します」 なんと、太っ腹! 後で聞くとバス代とは別に50万ほど、出してくれたそうだ。その世界の事は何も知らない、それにしても、理解できない行為だった。なんで、そんなことまでしてくれるんだと。 ラウンジでお茶を飲んでいると、直ぐにパスが到着。みんなで乗り込み、秋芳洞まで観光に出発。なんだか修学旅行気分だった。 通路を挟んで隣に座っていた、社中のまとめ役の久女之さんとさやかさんがお菓子や飲み物を分けてくれ、和やかな雰囲気で道中はとても楽しかった。久女之さんは、いかにも日本舞踊をしてますって感じの素敵な女性で、さやかさんは、どちらかと言うと宝ジェンヌの方が合ってる華やかな感じの方だった。 秋芳洞の見学も3人で回り、たのしい棚ぼたの休日を過ごすことが出来た。その上、ホテルに帰ると夕食は豪華中華コースが待っていた。こんなに楽しい日々が続くのだろうかとワクワクドキドキした気持ち、おわかりになるでしょうか? 夜には湯田温泉街を散策して、全くの旅行気分だった。以前にも書いたが、後に同じ湯田温泉街を訪れたとき、何だか違う街のように思えたのも仕方ないかもしれない、そんな楽しい気分で見た街がおなじように見えるわけもないんだから、、、。 そして、明日からは九州に入る、これから、どんなことが起こるのか、まだ何も知らなかった。 徒然に、つづく、、、 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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