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テーマ:心にのこる出来事(94)
カテゴリ:冒険少年の憂鬱
続きものですので(1)からお読み下さると嬉しいです。
関門大橋を渡って、九州に入る予定だった。下関側の公園、みもすそ公園(だったと思う)に、バスは一旦止まった。今までは新幹線の移動だったのだけれど、ここからは全てバス移動らしい。 公園から関門橋をゆっくりと眺めて、バスはのんびりと橋を渡り九州へと乗り入れて行った。 さーて、ここから波乱の九州バス旅巡業が始まるのだ。(^_^) 九州に入ってからは、行く場所場所はジグザグ運行となる、劇場も狭いとこあり、異様にキレイで、庭園がついたようなとんでもなく奇麗な劇場有りと、バラエティに富んでいる。 まずは福岡に行くのだけれど、福岡公演は何事もなく終了するので、つぎの公演地でのお話しをしたいと思います。 佐世保の街は、ゆっくり見物する暇もなく仕事に追われた。小道具の荷物の到着が遅れたのだ。いつかいつかと待ち時間だけが過ぎていった。やっと到着したのが開演1時間前だった。あわてて用意をし、何とか無事に公演が始まった。まだまだ残暑厳しい時期だったこともあって、脂汗混じりの汗をかいたのだった。 佐世保の興行主の接待で、公演が終わってから、食事の席が設けられた。今回は和食の宴だった。まず席について驚いたのは、直径60cmぐらい有りそうな、高価そうで鮮やかな絵皿にのった「てっさ」だった。こんなにキレイに盛りつけられた、大量のふぐの刺身など見たことがなかったからだ。 間もなくして、興行主と思われる、恰幅の良い紳士があらわれ、挨拶をされた。簡潔な挨拶と乾杯の音頭で、宴はは始まった。 先ほど挨拶をした興行主の紳士は、一通り挨拶をして回り、こちらに向かって歩いてきた。そしてボクの隣に座ったのだ。 何だか嫌な予感がした。落ち着かない場所に座ってしまったものだ。これは一緒に仕事をしている上司の陰謀だったのかも知れない。 「兄さんは、まだ若そうだな」 興行主の紳士は、そう言いながら、ボクに酒をついでくれた。 「はい、19・・・・・・・・さい、で、です」 酒をついでくれている徳利を持つ手を目の前に見て、ボクは返事につまった。そして、ほぼ固まった。 に、に、に、二本しか指がない!! 親指と人差し指しかなかった。そうその興行主の紳士は、二本指の紳士だった。その指を見たら、やはり左の指もきになるわけで、、、、。気になって気になって仕方がなかった。その紳士は、ボクの左側に座っていたので、左手を見るためには、わざとらしい態勢をしなければ見ることは出来ない。 左手も気になるのだけれど、びっしりと皿に敷き詰められた「てっさ」も気になる。しばらくは好奇心より食い気で、「てっさ」をむさぼり食った。こんなに美味しいふぐ刺しは、初めてだった。 とその時、席を立っていた隣の紳士が戻ってきて背中をポンと叩いた、 「食べてるか? 飲んでるか?」 と勢いよくたずねてきた。腕がもどる瞬間に指が見えた。 左手は3本だった。 きっとこの紳士は親分なんだ。し、しかし、これだけ指がないと言うことは、組のために頑張って働いたか、失敗が多かったかのどちらかだろうけど、親分になってるぐらいだから、前者の方だとは思う。 その時、その親分は、目の前の魚の活け作りの頭の部分に酒を垂らして言った、 「ほら、この魚活きがいいだろう!」 「刺身は、これぐらい活きがいいのをくわにゃいかん」 その時、その魚の目は、ボクの方を向いてこう言ったように思えた。 「美味しく食べてくれるのは、結構だ!、しかし、そこまでしなくてもいいじゃないか。気持ちよく逝かせてくれ」 その魚は、目がうつろになるまで、そう言い続けていた。 その時以来、魚はシッポの部分しか食べられなくなった(^_^) 徒然に、つづく、、、 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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