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テーマ:心にのこる出来事(94)
カテゴリ:冒険少年の憂鬱
続きものですので(1)からお読み下さると嬉しいです。
バスでの移動は、殆ど午前中に行われたが、長崎に行くときは夜の移動だった。移動距離が短いのと宿の段取りとの都合でその辺の予定が変わった。旅一座の移動は、2班に分かれていた。1班が大道具の班だ。彼らは通常夜の内に移動する。朝から舞台を作らないと行けないからだ。2班は、役者、踊り子、床山、衣装、小道具が一緒のバスで移動する。昼から現場に着いても間に合うからだ。 その日は、公演が終わって片づけをし、夜の11時頃からバスで長崎入りをした。バスの中で美味しい長崎チャンポンの店の話でもりあがり、長崎に着いたらみんなで行こうと言うことになった。 確かにそのチャンポンは美味しかった。そして生まれて初めて皿うどんというものを食べた。各地の美味しいものを食べることが出来るのは、この旅の楽しみの1つとなっていた。 長崎、それは、高校の修学旅行で行けなかったところだ。このバイトに行きたいと思った動機でもある。なんとなく他の場所と違ってウキウキしていたのかも知れない。そのせいか次の朝は早く目覚めた。ホテルの周りをぶらぶらしながら写真を撮ったりして、ひとりで早めに劇場まで歩いていった。 劇場では、大道具の人たちが舞台づくりの最中だったので、作業をしばらく見ていた。しばらくすると劇場の入口に親分の乗ったクライスラーが到着し、劇場支配人の部屋に入っていった。すると、運転手をしている若い衆が、ボクの所にやってきて話しかけてきた。 長崎には、始めて来てのかとか、そんな話だったと思うのだけど、内容は覚えていない。昼間はしばらく時間が空くので、長崎の街を車で案内して上げようと言うことになった。あわててホテルに電話を入れ、上司(もう1人の小道具係)と仲良しの踊り子さんに連絡をした。 坂道の多い長崎を全長の長い車で走ると、急な坂を上るときや下りきった時に必ず車の底が、道路に接触する。それは、まるでサンフランシスコででカーチェイスをしている映画のワンシーンのような感じで、なんだかワクワクした。 長崎平和公園、大浦天主堂、グラバー邸等々、一般的な観光地は全て回ってくれた。普通なら、たった半日の観光でこれだけの場所は回りきれないだろうと思うくらいの行程だった。 そしてその夜は、親分がきれいどころを連れて飲みに行きたいと言ったらしく、運転手をしている若い衆が、なぜかボクに、誰か誘えませんかねと言ってきた。仕方なく仲良くしてくれてる何人かにその話を伝えたが、やはり良い顔をしない人も何人かた。しかし、これも付き合いだから仕方ないね、と一番の仲良しだった二人は快く行ってくれる事になった。 午前4時頃、ホテルの部屋に二人から電話が掛かってきた。帰ってきたけど、入り口にカギが掛かっていて、旅館の部屋に入れないという。その時間、外はまだ真っ暗なので、女二人では心細いから、よかったら出てこないかと誘われた。ボクがたのんで行ってもらったワケだし、悪いコトしたかなと思った。 缶コーヒーを飲みながら、3人で色んな話をした。踊りを始めた頃の話、仕事の不満、この旅のこと、ボクにとっては別世界の人で普通ならこんな風に話をする事なんてない人たちと、夜明け前の公園での会話なのだ。全てがあり得ない事ずくめだった。 踊りのプロたちの会話は、ボクにとって新鮮なものだった。バスの中でその日の振り付けの打ち合わせをして、振り付けの変更を瞬間に完了してしまう。それだけでも感心したのに、その時の話はもっと深くて、プロの世界の厳しさと、夢の実現の困難さを感じつつも、この人達は、ホントに踊りが好きなんだなと思いながら二人の会話を聞いていたのを覚えている。 そして、それとは別に年上の女性に対するあこがれのようなものもあったのも事実だ。普通でも大人の女性は、その頃のボクにとってあこがれだった。まして、舞台での艶やかな姿と仕事に対する厳しさのギャップは、ボクの中では、あこがれの許容範囲を完全に超えた存在だったのかも知れない。 それにもう一つの要素として、男色系の役者さんにつきまとわれていたと言うことが、非日常の世界を形成した大きな原因だったということだ。このことについては、機会を改めてお話ししたいと思いますが、この年上の女性に守って貰えて、なんとか1ヶ月が楽しく過ごせたのも事実だった。守って貰ったと言っても、何かをしてくれたとか言うことではなく、一緒にいることで、気分的に救われたと言うことなのだ。それに、彼女たちにとっては、19歳の可愛い(自分で言うか)少年だったに過ぎなかったと思う、要するに男として見られていなかったと言う事だろうね。 そして、長崎での2日目は、年老いてぼけたとしても、決して忘れないような強烈な1日だった。 徒然に、つづく、、、 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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