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テーマ:旅のあれこれ(10281)
カテゴリ:旅の中の日常
ニューヨークへは、合計3回旅をした。二回は例によって会社の慰安旅行兼視察名目の旅だ。そしてあと一回は、気の合う友達との旅だった。始めていったのは、12月の初旬だったので、マンハッタン・ブリッジを渡るときのマンハッタンの夜景が目に染みいるような鮮やかさで、瞬きするとシャッターを切ったように脳裏に刻まれていく音がするほどわくわくしたのを思い出す。
親しい友と行く旅は楽しいものだ。行くメンバーにもよるのだが、この時のメンバーは個性的で楽しめる要素は濃厚だった。 会社の同僚といつも行く喫茶店のマスターと漫画家の竜巻さんとそのダンス仲間の女性、男3人女4人の気ままな旅だった。もっとも竜巻さんたちは、ブロードウェイのダンスレッスンを受ける事になっていたので、一緒の行動は少なかった。 普段はオプショナルツアーに参加したことは無いのだけれど、今回は、女性の方が多く、かつハーレムを回ると言うことと、土地柄問題が起こりやすいだろうという判断から、「ゴスペルツアー」を申し込んだ。しかし、担当の人の話では、そのツアー自体まだ誰も利用したお客さんはいないらしい。 「いちご白書」の舞台となったコロンビア大学の横を通り、ミニバンに乗った僕たちは、ハーレムへと入っていった。セント・マーティンズ教会やアポロシアターを見て、ゴスペル礼拝の行われる教会に到着した。しかし、添乗員の方が、教会に入っていってなかなか戻ってこない。 その間、車の中から街を眺めていた。大きなチェーンを肩にかけて自転車に乗って通り過ぎる若者、バスに掴まりながら走り去る自転車の少年、午前中なのに茶色の紙袋にバーボンを入れて飲みながら歩くおじさん。まるで映画のワンシーンの様な風景だ。 添乗員の人が疲れた表情で車に戻ってきた。 「すみません、今日の礼拝は中止になったそうですので、別の教会を紹介してもらいました。ここより小さいですが、家族的でいい雰囲気の教会らしいです」 「・・・らしいです?」 こういうハプニングも、団体なら怖くないのだ。 数分走って教会に到着した。外から見ると只のビルだった。中の雰囲気はどうなんだろうと、すこし不安に思いながら白いドアから中に入った。 まずは、別室に通され午前の礼拝が始まるのを待った。いろいろと説明を受け、アメリカにしては天井の低い部屋でしばらく待機した。ロングドレスの黒人女性が、礼拝堂へと案内してくれた。礼拝堂は、乳白色系の壁で明るい雰囲気だった。 牧師さんが、講話のようなお話しを少ししたあと賛美歌が歌われた。そのあと、歌詞カードのようなリーフレットが配られ、それに載っている歌をみんなで合唱した。知っている曲も有った。いっしょに歌っているとなんだか高揚してくるのを感じた。この高揚と一体感と感謝で、アメリカが団結しているんじゃないかと思えるほどだった。 最後の歌がリフレインされ、みんなが抱き合って退室していくのだけれど、その順番というか流れというか、人がうねりが気流を起こしているかの様な不思議な感覚と共に人々が礼拝堂から少しずつ外に流れていった。肌の色が違っても人間の距離が縮まったような気になったのは事実だ。 昼から洗礼式があるらしく、特別に見学をさせて貰えることになった。洗礼室の隣の赤絨毯の部屋へ通された。この部屋も天井が低い。最後の晩餐のテーブルのような長いテーブルにみんなは囲むように席につき、パンとワインをご馳走になった。 こういう場所に来ると、自然と厳かな気持ちになるから不思議だ。 洗礼式は30分ほどで終わった。 映画やTVでは何度か見たことがあったが、最初から最後までを見たのはこの時がはじめてだった。父方の実家が寺と言うこともあり仏教の儀式に接することは多かったので、その違いもいろいろと感じる事ができた。 「良く来てくださいました、感謝します」 とみんなに見送られ、温かい気持ちで教会を後にした。 ところが、表に出たとたん状況は一変したのだ。 僕たちの乗ってきたミニバンの前後にぴったりと他の車が駐車してあったのだ。添乗員さんは、教会に戻って状況を説明しに行ったようだった。ボクたちは車の中で待った。まわりを見渡すとさっきより目つきのわるいおじさん達が、それぞれ酒の瓶を袋に入れて、ラッパ飲みしてる。あるものは街灯にもたれながら、またあるものは消火栓に腰掛けて。 しばらくして添乗員の人が車に飛び乗った。 「みなさん、強行突破しますので、外は見ないようにしてください!」 まるで、ソドムトゴモラだ! 「強行突破?」 添乗員さんは、緊張した面持ちでイグニションキーを回した。 車を前進させて前の車にぶつけた、そしてバックして後ろの車にぶつけた。それぞれの車は少し移動したようだ。しかしその音に反応したかのように、まわりにいた酒をもったおじさんたちは一斉にこちらを向いた。のそのそと歩よっくるものもいた。 「みなさん、シートにしっかり掴まっていてください!」 添乗員さんはそう言うと、前後の車にぶつける行為を2回ほど繰り返した。さっきより勢いはよかった。 周りの店からも、何事だといわんばかりに、怪訝な顔をしてでてくる人たちがいた。 「行きますよ!」 ミニバンはタイヤをならして発信した。奇声をあげて追いかけてくる人がいた。まるで映画だ。これからカーチェイスでも始まるんじゃないかと思えたほどだった。 「大丈夫なんですか、あんなことして」 「教会の人が、車を押しのけて出てください」 そう言われたらしい。映画の世界は現実を切り取ったモノだったのだ。おそらく一番ドキドキしていたのは、添乗員さんだったと思う。こちらで暮らしている人は、その危険度を知っているからだ。 そのあと、ソールフードを食べに行く予定だったのだけれど、添乗員さんは完全にその予定をとばしてしまった。早くハーレムから脱出したかったんだと思う。 セントラルパークの近くまで来てから、忘れていたことをみんなに告げ、謝罪をされた。 みんなも少々興奮していたのもあって、そのことは気になってないようだった。 その後、ブロンクス動物園に行こうと思っていたボクは、みんなにそのことを言い出せなかった。もう一度ハーレムを通らなきゃ行けないからだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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