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October 10, 2005
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カテゴリ:映画のあれこれ
川端康成原作の映画と言うより、山口百恵の最後の映画と言った方が、思い出す方が多いかも知れない。
東宝映画は、プロモーションに力を入れていた。

映画館もそれぞれに企画をして、ロードショウを盛り上げようと、色んなアイデアを出し合った。

ボクがバイトしていた映画館もその例に漏れず、入口にディスプレイをして盛り上がりを演出することになっていた。
「古都」と言う映画のタイトルと同じ銘柄のお酒を出している酒蔵とのタイアップが決まっていた。映画館の入り口に「古都」のタルを積み上げて飾り付けをし、川端康成と「古都」と言う内容で、立て看板に「古都」にまつわる記事を掲載する、と言う企画だった。

仕事が終わる少し前に、ボクは支配人に呼ばれた。
「この書類を○○酒造の△△さんに持っていってくれるかな、そのまま帰っていいから」
「はい、、分かりました」
そのまま帰られるということが嬉しくて、気持ちよく了解した。

酒造会社の事務所を訪ね、係の人に書類を渡した。
彼は、渋い顔をして、しばらく書類を見つめ
「これじゃ、だめだ、前にも支配人に言ってあったのにな」
何のことか分からず、ボクは返事に困った。
「君は大学生なの?」
「まぁ」
「文系か?」
「一応そうです」
「もう時間がないから、君そっちの部屋で、考えてくれ」
「えっ? ボクがですか?」

文系と言っても、文学部じゃないし、第一突然そんなことを言われても、何をどういう風に書けばいいのかも分からない。
「そもそも、これはどういう趣旨で、何をアピールすればいいんですか?」
この質問がいけなかった、やるきが有ると思われてしまったようだ。

一通り説明を受けて、資料になるような本を数冊渡された。
「出来たら、内線で呼んでくれればいいから・・・」
そう言って、係の人は部屋を出て行った。
川端康成について書かれた文献や小説「古都」の本や、その小説の解説の様な文献や京都の文化財や文化について書かれた本、をパラパラめくりながら、自分なりに文章を書いてみた。そして、やっとの思いで指定された文字数になるように、なんとか書き上げた。

「出来ました」
内線で係の人にそう伝えた。
「チョット待っててくれるか、直ぐ行くから」
そう言われたが、30分ほど待たされた。
彼は慌ただしそうに部屋に入ってきて、ボクが書いた原稿を読んだ。
「う~ん、何か違うな、、悪いけど書き直してくれるかな」
「どう違うんですか? それを言ってもらわないと書けませんよ」
「それは、自分で考えてよ」
「・・・・・」
「頼むで!」
そう言いながら部屋を飛び出していった。ボクはまた部屋にひとり残された。何をどう書き直せばいいんだろう。
仕方ないので、もう一度、文献を読み直してみた。

川端康成の「古都」自体はまだ読んでいなかったのだけど、舞台の北山と双子の姉妹の話を読み進むうちに、何だか読みふけってしまい。とうとう全部読んでしまった。
時計を見ると、もう10時を過ぎていた。その間一度も様子を見に来てはくれなかったわけだ。しかし、うだうだ言っていても始まらないので、はじめから書き直してみた。
そして、係の人を呼んで、見てもらった。
「ん~、さっきより良いけど、後半がまとまり悪いな。もうちょっと直してみてくれるか」
「そうですか、でも・・・」
ボクの話を聞くこともなく、彼は部屋を出て行った。

1時間ほどかけて、何とか書き直した。傑作が出来たとおもった。
今度は、OKが出ると思ったが、
「何か、インパクトのある言葉がひとつ欲しいな」
「それが出来たら、帰っていいから」

そう言われたとき、何だか我に返ったように、なんでボクがこんな仕事をしてるのか疑問が湧いてきた。しかし、ココまでやったら、何とか完成させないとと言う意地もあった。
インパクトの有る言葉と言っても、コピーライターでもないわけだし、そう簡単に見つかるわけがない。しかたなく机の上の辞書を引っ張り出して、パラパラとめくりながら言葉を探した。
どんな言葉を見つけたのかは、もう思い出せないけれど、辞書の中から、ぴったりの言葉を見つけ出した。

「これ、いいやん、やっぱり文化系やな」
だから、それは関係ないって、、、と思いながらも、喜んでくれたことは、素直に嬉しかった。
「お疲れさん!」
「お疲れさまでした!」
そしてもう夜中の1時を過ぎた街に飛び出していった。

最終電車を逃してしまったので、いつもの店で朝まで飲んだ。
心地よい興奮のために、眠気も酔いも感じなかった。

ロードショウが始まった時、入口のディスプレイには、企画通り酒樽が積み上げられ「古都」についての、文章がお寺の説明文のように掲示されていた。殆ど読んでくれる人はいなかったけれど、仕事でその前を通る時は、なんだか密かに嬉しかった。
そして、山口百恵引退の映画は、ボクの心に色んな意味で焼き付いたのだった。





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Last updated  October 10, 2005 09:19:15 PM
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