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テーマ:心に響く音(35)
カテゴリ:音楽あれこれ
山下洋輔 (pf) 坂田明(as)森山威男 (drs) このメンバーから受けた、打ちのめされるような強烈なパワーを今も忘れることが出来ないでいる。 何がそんなに強烈なのか、普通のJAZZを想像する限りでは、思いもよらないだろうが、そのパワーには、ただただ圧倒されるだけだった。 PAの仕事を始めてまだ間もない頃だった。「山下洋輔トリオ」の仕事だと言うこともあって早めに出勤した。勤めている会社が管理しているホールでのコンサートだったこともあり、気合いを入れての早めの出勤だ。 まだ、誰もいないホールの鍵を開け、客電だけをオンにし、機材の点検を始めた。マイクの入ったアルミケースを引っ張り出し、その日使う本数をチェックしたり、マイクスタンドをその本数分セットした。 そんなことをしていると事務所から電話が入り、 「早いな! 暇だったらショーで使うBGMのテープ作りを手伝ってくれるか?」 「いいですよ。。。」 渋々そう返事して、事務所に向かう。リハーサルから楽しみにしていたのに、、、と思いつつテープ作りを手伝った。 作業が終わって、お茶でも行こうと誘われたが、仕事があるからと体よく断りをいれ、ホールに戻った。 リハーサルはまだ始まってなかった。ほっとして控室のあるフロアーに向かう。メンバーはもう到着してた。 ステージに戻ると先輩PAの人が 「セッティングしてくれたの、自分か?」 「そうです、ちょっと早く来たもので」 「ありがとう、助かったわ」 「いえいえ、で、リハーサルはまだですよね」 「もう来ると思うで!」 と言うが早いか、メンバーがステージに現れた。 「順番に音だしするんで、適当に音を拾ってくれますか?」 坂田明さんが、そう言った。 まずは、ドラムが4ビートを刻みだした。しばらく単調なリズムでひたすらビートを刻む、そしてドラムソロが一通り終わると。そこにピアノが絡んできた。しばらくドラムとピアノがセッションしたあと、ピアノだけになった。 音は順番にコンソール卓の設定されていき、次はサックスの番だ。 一通り終わった。 「調整できた?」 山下さんは笑いながらそう言った? 「後は適当にやってるから、チェックおねがいします」 そういって、何故か「エリーゼのために」をJAZZアレンジで弾きはじめた。ブレイクに「ツラトゥストラはかく語りき」を使い、ドラムとサックスが同時に絡む。 ー始まったぞ! 次のブレイクから、肘とと拳を振り子のように鍵盤の上にたたき付け、お得意のフリーJAZZが炸裂しはじめた。 足は地団駄を踏んで、頭はバンキングしていた。それでもリズムはしっかりとキープされ、サックスはまるで肺活量の検査でもしているかのように、鳴り続ける。ピアノ鍵盤の上で指は踊っていた、それはまるで、トムとジェリーのハンガリアン狂想曲のようだ。 汗が飛び散る、こめかみには血管が浮き出てきて、それらが客電の中でさえ輝いて見えた程だった。 タタ、タタ、タタ、タータタタ、タタタ~ 最後は「エリーゼのために」で終わるのかと思いきや、自然に「星に願いを」に変わり、うねりのようなリズムは、うってかわって切なげな静寂へと導かれるように、ピアノが願いを込めて語りかけてきた。終わった。予想もしなかった終わり方だ。 鳥肌が立つような即興演奏だった。 何かのインタビュー記事で、「コンサートの時は毎回パンツまで履き替えますから」と言うのを読んだことがあったが、目の前でその意味がわかった。凄い汗なのだ。まるで真夏に全力疾走でもしてきたかのようだった。 15分ぐらいのリハーサルだった。リハーサルとしては凄く短い。 しかし、スタッフもPAもただただ圧倒されて、なんだか良くわからないうちにリハーサルは終了した。 こんな音合わせは初めてだった。でも最高のリハーサルだった。 控え室の素顔からは想像することが出来ない演奏だ。ピアノの調律が一回のコンサートで狂ってしまうと言われるのも理解できた。 その上、この人たちがタモリを見つけだした、その理由も納得できる程の意外性を見てしまった。どれほど強烈なインパクトだったか分かってもらえるだろうか? テクノラティプロフィール お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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