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カテゴリ:映画のあれこれ
秋晴れの爽やかな秋の日だった。大学が休みだったので、バイクであてもなく出掛けた。広沢の池の辺りを気持ちよく走って、「高尾パークウェイ」と言う有料道路へ向かった。
そこは、当時バイク乗りが集まる場所だった。平日の午前中だしゆっくり走れると思って行くことに決めた。 思った通り、車もバイクも少なかった。2回ほど往復して、展望台で保津峡を見ながら休憩をした。風がヘルメットで固まった髪に櫛を入れるように流れ込んできた。爽やか気分を十分に味わい、また走り出した。 ヘヤーピンカーブをバンクして回り、立ち上がりにアクセルを全壊にする。走りまでも気持ちよく決まった。 その時だ。前方から赤いつなぎを着た女性が歩いてくる。歩いて?そう、ココは自動車専用道路だ!なぜこんなところを人が歩いているんだろう! だんだん近づいてきた。赤いつなぎを着て風にたなびかせた髪が、まるで映画のワンシーンのようだった。 「危ないな。」ヘルメットの中でそう呟いた。 すれ違いざまに髪に隠れた顔が半分だけ見えた。何処かで見た顔だ。誰だった?こんなところで知り合いに会うことはないだろう、ましてや歩いている。頭の中がぐるぐる回った。危なく次のカーブでふくらんでしまいそうになった。前方は京都市内が見渡せる崖だったので、ドキッとして走りに集中した。 何だったんだ。幻想でも見たのか?事故で死んだ人の亡霊か? 考えがまとまるはずもなく、ただ不思議に思った感情も次第に薄れていった。出口まで行ってまた逆戻りして、同じ場所を通り過ぎたが、もう女性の姿は見あたらなかった。それから2回ほど往復した。 昼も過ぎ、腹ごしらえに、休憩所の食堂に入ろうと駐車場にバイクを止めた。そこにはワゴン車や車が何台か止まっていた。いつもより車が多いな、ぐらいにしか思わなかった。 食堂の扉を開けた。満員だった。店の中を見渡したが、空席が見つからなかった。2回ほど見渡したとき、ひとつだけ席が空いているのを見つけた。ゆっくりと席まで近づき、 「ここいいですか?」 と声をかけた。 「どうぞ!どうぞ!」 それは何処かで聴いたことがある声だった。座ってから、礼を言おうと思い、横を向き 「ありが・・・」 言いかけて、言葉が止まった。赤い繋ぎを着た秋吉久美子さんだった。 「なにしましょう?」 店のお姉さんがそう聞いてきた。 「きつねうどん、ください」 「こっこう、美味しかったよ!(^_^)」 すかさず秋吉さんがボクの方に向いてそう言った。 緊張しながら微笑みを返した。そして、反対側の隣をみてまた驚いた。千葉ちゃんだっだ。よく見ると、周りの人は、どうも映画関係者のようだ。 さっき道を歩いていたのは、秋吉さんだったんだ。きっと映画の撮影なんだ。そう思って、 「撮影ですか?」 と訊ねてみた。 「そうだよ、え~っと、タイトルなんだったけ?」 「冒険者カミカゼだよ」 秋吉さんは、上機嫌だった。雑誌などで気むずかしい女優のように書いてある記事を思い出しながら、ボクは隣でちょこんと座っていた。 きつねうどんが運ばれてきて、おそるおそる食べた。ホントにそんな感じで食べた。放送局では、よく俳優さんたちに囲まれて食事をした経験はあったし、そう言う状況に、なれていると言えば慣れていたのだけれど、突然出くわした場合は、心の準備が出来ていないのか、今までになく緊張した。 しかし、上機嫌な秋吉さんにいくらか救われた思いだった。 「エイトマンの歌、全部歌える? 光る海♪ 光る大空♪ 光る大地♪」 歌い出してしまった。秋吉久美子、面目躍如だぞ~。 一緒にコーヒーを飲んで、楽しい昼食は終わった。 背負っていたバッグにしっかりサインを貰い、 「映画みますね」 といって別れた。実は、「赤ちょうちん」でデビューしてから映画も全部見ていたし、密かに好きな女優さんの1人だったのだ。 「冒険者カミカゼ(1981)」は、アラン・ドロンが出ていた「冒険者」の焼き直しのような映画だった。道路を歩いているシーンでボクのバイクが映ってないかと、期待半分で見ていたが、バイクは映っていなかった。殆ど話題にもならなかったので、この映画を知っている人は少ないかもしれないな。映画の出来は別として、忘れられない映画のひとつとなった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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