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テーマ:心にのこる出来事(94)
カテゴリ:冒険少年の憂鬱
完全無職だった頃の話です。高校を出てしばらくは、半年働いて半年自由と決め込んでいた。春のポカポカ日和のある日、日課にしていた京都御所へ出掛けた。朝食にサンドイッチを作り、その半分を昼食用として持って出た。御所の芝生の上に寝ころんで本を読むのがその時期の日課だった。
御所に午前9時頃に着き、いつもの場所へとてこてこ歩いていたら、外人さんに声をかけられた。 「今、何時ですか」 「9時10分です」 「ありがとう、鴨川はどっちの方ですか?」 「あっちの方ですよ」 指さして教えてあげた。 そして、いつもの芝生で、いつものように本を読み、いつものように昼になったらサンドウィッチの昼食をとり、またしばらく本を読み、後は丸太町界隈の古本屋を巡って、楽しみながら歩いて河原町までぶらぶらするのだ。お香を売ってる店に寄ったり、インド雑貨の店に寄ったりして、ほんとにぶらぶら気の向くまま風の向くままを実践していた。 寺町から本能寺のところの抜け道を通って河原町に出て、四条に向かって歩いているとき 「えぇっと、おにいさん、」 と声をかけられた。 「はい、」 と振り向くと、河原町のジュリーだった。 ジュリーと言っても、沢田研二に似ている人とか、そう言うのではない。当時の京都の事を知っている人なら、きっと知っていいる超有名人だ。落ち武者が何年も風呂に入らないときっとこんな髪型になるだろうと思われるような髪をして、日がな1日河原町、四条界隈をうろうろしている、いわば浮浪者だった。 そう、そんな彼に声をかけられたのだ。 「今、何時だ?」 「時間ですか、えっと、もうすぐ5時です」 「そうか」 声をかけられただけでも、相当な驚きなのに、時間を聞かれた。 彼でも時間を気にするんだ。時間を聞いてどうするんだろう!誰かと会う約束でもあるのか?そろそろ飯の時間だろうか?バスや電車に乗ることはないだろうし、、、、何だろう? そんなことを考えながら、彼の後ろ姿を呆然と見ていた。 木屋町を抜けて四条に向かった。路地を通り抜けようとしたとき、 「あのそこの彼氏!」 「いいえ、結構です」 黒服の男性に声をかけられ、思わずそう答えた。 「違うって、今何時かなって、聞きたかっただけだから」 「すみません、5時半です」 「ありがとう」 昼サロの多い路地だったのでてっきりキャッチかと思った。 何だか今日は、やけに時間を聞かれるなと思いながら、電車に乗るために地下に降りて行った。そして通路へと曲がったとき、 「すみません、今何時ですか?」 まただ、条件反射のように振り返りもせず答えた。 「5時40分です」 答えると同時に振り返った。 そこに立っていたのは、ぴったりフィットでくるぶしが出るくらいの短め黒ジーンズ姿の田中邦衛さんだった。 テレビで見慣れた顔がくしゃっとなって 「ありがとう!」 と微笑んだ。 「いいえ」 ついつられてくしゃくしゃな笑顔でお返し。 1日に何度も時間を聞かれた、その締めくくりがこれだった。 全日本女子バレーチームに出くわしたときもビックリしたが、この時もそれに負けず驚きだった。1日何回も色んな人に時間をきかれただけでも、不思議だったのに、最後が田中邦衛さんなのだ。映画の「アフリカの光」を数日前に見た後だっただけに、その驚きは大きかったように思う。 不思議な1日だった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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