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テーマ:心にのこる出来事(94)
カテゴリ:冒険少年の憂鬱
大学に通っていた頃、ある女の子に熱を上げていた時があった。
映画館でバイトをしている頃のこと。バイトを幾つも掛け持ちして寝る時間もなかったころだ。そんな状態で女の子と付き合うとなると、いっそう寝る時間がなくなるわけだ。 忙しいバイト生活をしているわりに、毎晩彼女と飲みにでかけては朝まで喋ったりしていた。 そんな暮らしでは、カラダを壊しても無理はない。 胃に3箇所も潰瘍ができ、看護師さんに向かって血を吐いて緊急入院となった。彼女は毎日のように見舞いに来てくれたのだけれど、どうもその時期に気になる人ができたようだった。 その件についてはかいつまんで話せるような内容でも無いので、今回は触れないでおこう。 1ヶ月ほど入院して、2ヶ月程のんびり暮らした。のんびりとは云っても学校へは行っていた。バイトをしていないとこんなにも時間がいっぱいあったんだと実感した。 友達という存在はホントにありがたいものだ。ボクの全快祝いと銘打って温泉旅行を企画してくれた。秋も真っ盛りの頃だった。 男女で温泉行きなど許してもらえない女の子がいたので、女の子だけでその子の家に誘いに行く。両親はちょっと怪しまれたようだが、なんとか家を出してもらった。ひとりっ子の女の子は大変だ。 男女合わせて総勢9名の2泊3日の温泉旅行がスタートした。 車三台に別れ三重県榊原温泉めざして出発。途中赤目四十八滝を見てのんびりと昼食をとり、温泉には早めに到着した。清少納言の「枕草子」117段に、「湯はななくりの湯、有馬の湯、玉 造の湯」に出てくる、「ななくりの湯」が榊原温泉だという。「美人の湯」として知られている温泉郷だ。 宿について先ず温泉に入る。男湯は大浴場になっていた。そのうえこの大浴場は一応混浴なのだ。浴室にはバラバラと宿泊客が入っているていどだ。もちろん女性は1人も入っていなかった。 実は少し期待をしていたのだけれど、そんなに甘くはないわけだ。 たとえ入っていたとしても、おばあさんが入ってくるぐらいだろう。 旅の汗を流した後は、みんなで宴会だ。二十歳台半ばまでの若いメンバーにしては、思い切った豪勢な食事だった。もっともこのメンバーは元々飲み仲間なので、酒の量の方が心配なぐらいだ。 ボクは病み上がりと云うこともあり、ビールを少しだけ飲んだ。 久しぶりに飲むビールは、内臓に染み渡るように美味く、幸せな気分になった。 食事にも満足し、みんながほろ酔いになったころ 「これから、みんなで風呂にいこうよ!」 だれかが、そんなことを言いだした。 「いいね」「いいね」・・・・ スイッチでも押されたかのように、意見はすんなりまとまり、異常な程の盛り上がりとなった。 女の子たちも勢いでの同意だった、と思う。 そして、一度部屋に戻り、ぞろぞろと旅館の廊下を大浴場へと繰り出した。 しかし予想通り女の子の1人が、 「やっぱり、恥ずかしいわ、やめとく!」 そう言ってぐずり出す。 「そんな言わんといっしょに行こうや、みんな入るから」 「そうや、そうや、」 「お前の全快祝いなんやし、責任もって連れてくること!」 一番年上の友達にそう言われ、ボクは渋々その子を説得し始めた。 「みんな行ったし、一緒に行こうよ。大丈夫やって!」 ロビーで説得していると通りかかった人たちが不思議な顔でこちらを見ていた。 説得の甲斐があったのか、彼女はやっと入ると言ってくれ、一緒に風呂へ向かった。ところが、またまた途中でぐずりだし、やっぱり嫌だと言う。 仕方なく、半ば無理矢理、いやどう見ても無理矢理なんだが、そこは勢いというか何というか。。。。 引きずるようにして脱衣所に押し込んだ。 「にいちゃんガンバレ!」 などとチャチャをいれるおじさんもいたりしたので、調子にのってしまったのもある。 女性用の脱衣所に2人で入った。なんだか良くわからず、ホントに勢いだった。 「もう分かったから、入ればいいんでしょ! ちょっとあっち向いててよ!」 そう言ったかと思うと、次の瞬間扉が開いて、浴室の方へ飛び出して行った。そして、ボクも浴衣を脱ぎ、ゆっくりとカゴに入れ、浴室への扉を開けた。 「ひゅー、ひゅー! 兄ちゃんよーやった!」 浴室は、夕方とはうってかわって、いっぱいの人が入っていた。 そして、なぜかみんなこちらを向いてにこやかに笑っていた。まるで旅館の宿泊客が全員入っているかのようだ。 ボクは、何だか大げさなリアクションでもしなきゃ入っていけないような気持ちになり、「やりましたー!」みたいに大きく手を挙げて浴室に飛び込んだ。 「ひゅー、ひゅー!」 またもや、訳の分からない歓声が上がった。 湯船では、おじさんたちと話が弾んだ。お互いどこから来たのかだとか、なんの集まりなんだとか。。。 やはり若い男女がぞろぞろと風呂に行くのを見て、おじさんたちが集まってきたらしい。おじさんたちに感謝されてしまった。 部屋で飲み直そうということになり、みんなは脱衣場の方へ向かった。肩に手ぬぐいをかけて、堂々と歩いていく女の子もいた。 女の子もいろいろだ。 しかし、入ってくるときは勢いだったが、出て行くときは、冷静に考えると何だか出にくい。ボクだけは女の脱衣所から入ってきたからだ。 「○○くんは、みんな出てからにしてや!」 と言われ、言われなくてもそうするわと思いつつみんなが脱衣所から出るまで、少しの間浴室に残っていた。 1人ぽつんと女性用の脱衣所に入った時、複数の女の人の声が聞こえてきた。 ーやばい! 誰か入ってくる そう思ったとたんに扉が開いて、おばちゃん軍団が入ってきた。 「ひゃー、若いお兄ちゃんが入ってるで」 「そんな慌てんでもいいやん。可愛いお尻してるなー」 参った。おばちゃん軍団にはかなわない。お尻をパチパチされながら慌ててパンツをはき浴衣をまとって、そそくさと脱衣場を出た。 「もう出るんかいな、残念やな」 そんな声が背中に張り付いた。 しかし、まぁ、変質者扱いされなかっただけでも良かったと思い、ほっとしながら部屋へと帰った。おばちゃんは凄い! 男の部屋へ帰ると、そこには誰もいなかった。 女の子の部屋の方が大きいので、そちらで集まって飲んでいたのだ。 そして宴は、まだまだ盛り上がったが、、、。 つづく、、、 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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