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テーマ:心にのこる出来事(94)
カテゴリ:冒険少年の憂鬱
「ヘルメットをかぶらないと危ないぞ」
「分かりました、今度買いま~す」 それが、彼とボクとの最後の会話だった。 その数分後、彼は交通事故で亡くなった。 事故自体は単なる接触事故だったようだ。バイクに乗っていた彼は、殆ど立ち転けのように軽く転倒しただけだった。 街灯のコンクリート土台の角に頭をぶつけ、そのまま亡くなった。 知らせを聞いたボクは、病院に駆けつけた。 病院にはすでに誰もいなかった。初めて訪れたその病院のロビーは、静けさに包まれ、誰かが何処かに紛れ込んでも探すことが出来ないほど整然としてブラックホールのように広く広く感じられた。 彼と言葉を交わしてから、5時間後の事だった。 彼はまだ高校生だった。性格も良く将来が楽しみな少年だった。 生きていたらどんな風な人生を歩んでいただろうと、12月8日が来るたびにそう思う。 彼が運ばれた病院からの帰り道、寒空にもかかわらず何故か空いた窓から、ジョン・レノンのイマジンが流れてきた。 気がつくとボクは足を止め、終わりまでその曲を聴いていた。 次にかかったのが、「ラブ」だった。 その時、ボクは思い出した。今日は、ジョン・レノンの命日だ。 それは、小学3年から聞いていたビートルズの、そしてボクにとってのひとつの節目になるような出来事だった。 「ビートルズのジョン・レノンさんが凶弾に撃たれて亡くなりました」そのニュースを聞いたのが、ビートルズばかりをかけている喫茶店で2杯目のコーヒーを飲んでいるときだった。 何故か分からないが、その時マスターが普段はつけていないテレビをつけていた。そのマスターと一緒にいた友達とボクは、目を見開いたままテレビに釘付けになった。ニュースが終わってマスターがかけた「Starting over」が今も心に響いている。 この日は、ボクの胸に2つのやるせない消滅が刻まれた日だった。 それから、10年たってNYのセントラル・パークにあるストロベリー・フィールドの「Imagine」の文字を見たときも、足場が組まれたダコダハウスを見たときも、2つの死が重なって胸の奥深くに沈んでいくのを静かに感じていた。 簡単に消える命。大事にしなくてはいけない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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