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テーマ:心にのこる出来事(94)
カテゴリ:冒険少年の憂鬱
ラジオの深夜放送が一世を風靡した時代がありました。というとなんだか大げさな言い回しですが、とにかくそれが学校での話題の中心だった頃のおはなしです。
その晩もラジオのスイッチを入れ、良く聞いていた深夜放送を何となく流しながら、本を読んでいたときのこと。 その本のタイトルは覚えていないけれど、その時流れてきた話は今でも鮮明に覚えている。 「K先生は、おかあさんにより、こたつに座ったまま死んでいるところを発見されました。ストレス性の心臓発作に似た症状だったそうですが、ホントの原因は不明だということです。」 ーK先生? こたつで亡くなった? 何処かで聞いた話だ。 そこからは、ボクの思考回路はラジオから流れてくる声に集中した。 「K先生は、生徒の間ではとても人気があり、みんなのお兄さんみたいな存在の先生でした。ホームルームの時、教室にギターを持ってきて弾き語りをしてくれたり、みんなの悩みや相談事にも気軽にのってくるような先生でした。先生が何に悩んでいたのか、亡くなられた今となっては、もう誰にも分からないこととなってしまいました。」 DJは、少しコメントを挟みながら、その投稿ハガキを読み続けた。 「先生間のいじめに似た行為をみんなは知っていました。年輩の先生たちの間では、今時の若者的なK先生の印象は良くなかったのでしょう。 何かにつけてK先生を悪く言うようなことを見聞きしたのです。」 この投稿ハガキは、数週間に渡ってその番組で話題になった。 投稿したのは同級生の女の子だった。先生の事を誰かに話したくて話したくてどうしようもない衝動に駆られたようなハガキだった。 ボクもその先生とよく話をした。その先生は理科の先生で、質問もした覚えがある。その場で分からなくても、ちゃんと調べて教えてくれた。調べても分からない時は、「これ以上の事は、調べてもわからなった。ごめんな」と正直に話してくれたのを覚えている。 中学校ぐらいになると、先生と生徒の関係というのは、ある一定の距離のようなものが生まれ、生徒も生意気にも先生の評価をするようになったりする。しかしまだまだ先生との距離のようなものが存在した時代だったのだ。その中でも、K先生は、学園ドラマに出てきそうな雰囲気を持っていて、生徒には人気があった。 ある朝礼の時、生徒たちが集まっている中で、生徒指導のS先生が、K先生の発言を遮ってこう言った。 「君は黙っていなさい! 君が口を挟むような問題じゃない!」 S先生の人格がボクには透けて見えた。 他にもそれに似た、侮辱ともとれる言動を時々見かけたことがある。 おそらくそれらの目に見えることは、氷山の一角に過ぎなかったのだろう。それでも先生は頑張っていたはずだ。みんなの前では、朗らかに笑っていた。 そして、ボクたちが卒業した次の冬、K先生が亡くなった事を知ったのだった。まだ20代半ばで、これから先生として成長し、色んな生徒と向き合って行くはずだったのに。 心ない言動で、その芽はつみ取られてしまった。S先生だけが悪いワケじゃないと思う。K先生にも未熟な所はあっただろう。しかし、当時のボクは、行き場のない思いにやるせなさを深く感じた。 今、自分の子供が学校を卒業するまで、まだ10年以上もある。 時代と共に学校のあり方も変わって当然なのだが、自分がその時その時思ったこと、感じたことをこれからも吐き出していきたいと思う。 人間1人の成長は、大同小異こそあれ、毎回毎回繰り返される事なのだから。 「大好きだったK先生のご冥福をお祈りします。ありがとう!K先生。私たちは元気です。」 ハガキは終わった。ラジオは静まりかえった。しばらくDJも黙っていた。 ボクはその沈黙がいつまでも続くように、ラジオのスイッチを切った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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