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テーマ:心にのこる出来事(94)
カテゴリ:冒険少年の憂鬱
遊び場だった裏山。カブトムシやクワガタを捕り、川で泳ぎ、水晶の原石を探した裏山。ある時ふと思った。あの山の向こうには何があるんだろう!その幼い衝動は抑えられなかった。山を見るたびにそう思うようになった。まだ小学3年か4年の頃だ。今思い返すと何故だか分からないのだけれど、その山の向こうには海があるんだと思いこんでいた。おそらく、いつも田舎に帰る道がそちらの方向に向いていたからだと思う。それが恐ろしくトンチンカンな思いこみだとは、思いもしなかった。
その日は、快晴の青空が目にしみるような日だった。 いつものように山の方へ向かって歩いていた。何をしに出かけたのかは思い出せない。ただ山へと向かって歩いていたのを覚えている。 快晴の空の山の稜線から、コルネのような雲が現れた。日頃から胸に秘めていた衝動が蠢いた。 ーあの山の向こうを見に行こう! コルネのような雲を目指して歩けば、山の向こうまで行けそうな気がした。この山は途中までなら何度となく登った事があった。 そう、その時は何の躊躇いもなく、気がつくと山を登っている自分がいたのだ。 快晴の爽やかな昼下がりだった。ひとつだけぽつんと浮かんだ雲はボクに手招きでもしているように思えた。 歩いた。ただただ歩いた。雲を目指して歩いた。 歩いても歩いてもちっとも近づかない。と言うより道なりに歩いていると雲から遠ざかって行く気さえした。 道を外れて一直線に雲を目指した。いつしかコルネのような雲は真上に見えていた。そしてボクが歩いてきた方角へと漂うようにゆっくりと流れていった。 しばらく雲を眺めながら、どうしたものかと立ち止まった。 雲を追いかけても山の向こうへは行けないと分かったからだ。 ーとにかく山を越えよう! それから2時間ほど歩いた。時計は持っていなかったので、その時間が正確には2時間だったかどうかは分からない。なぜだかそんな記憶があるだけだ。 山の中をまっすぐ歩いていくと道にでた。 ーこの道はどこへ行くんだろう そう思ったものの、もともと何処へ向かっているのかさえ分からないボクに、それに対する答えなど出るはずはない。 そして、その道を歩き始めた。そしてその道を走り出した。 早く山の向こうに何があるのかを見たかったんだ。 走ったり歩いたりを繰り返し、しばらくすると開けた場所にでた。 遙か向こうに街が見えた。あの街は何という街だろう? 歩きづけてやっと街に着いた。街に着いたとたん、とても不安になった。どうやってココまで来たのか覚えてないことに気がついたからだ。スゴク焦って走り出した。くたくたになるまで走り回った。 小高くなった空き地を見つけ、石垣をよじ登った。 その向こうに線路が見えた。 ー電車が走ってるんだ。電車に乗れば帰ることが出来る! そう思って線路の方へと走った。途中で○○○駅という看板を見つけたので、そちらの方へともつれかけた足を運んだ。 ーやった!駅だ! これで帰ることが出来る。 ーでも、お金もってない! どうしよう! 考えてから言ったのか、咄嗟に出た言葉なのかわからない。 「お金を落としたので、電車に乗れなくなったの。どうやったら帰れますか?」 ボクは駅員さんにそう言った。 「何処まで帰るの?」 「○岡です。」 「そうれじゃぁね、ちょっとここで待ってて、頼んできてあげるからね」 そう言って、部屋に入っていった。 ボクは、車掌さんが乗るところに、ちょこんと座らされて、送ってもらった。 「ありがとう!」車掌さんにお礼を言った。 ホームにいた駅員さんが改札まで付いてきてくれた。 「ありがとう!」 駅員のおじさんたちにお礼を言って、家路についた。 越えていった山を見ながら帰った。 いつしか増えた雲が紫がかった朱に染まっていた。 結局二つ向こうの街まで行っただけだった。半日の冒険旅行は楽しかったのだけれど、自分が思っていた所と違うところに着いた事に納得できず、親に頼んで地図を買って貰った。 自分のこどももこんな風にふらふら出かけていきそうだな(^^ゞ(笑) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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