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テーマ:心にのこる出来事(94)
カテゴリ:冒険少年の憂鬱
ボクにとって青空は、特別な意味がある。
快晴の青空の中に飛び込んだ事があるからだ。 高校2年の冬、入試の為に学校は2日間休みだった。 その日、ボクは原付の免許を取りに行った。休みの1日目、なんの勉強もせず、「原付なんて誰で受かるだろう!」と甘く見ていた。 さすがに何の勉強もしなければ、合格するはずもない。 その日の帰りに、問題集を買い込んで帰った。 一夜漬けで勉強して明くる日に再チャレンジして合格。 その日に友人と会う約束をしていたので、友達と落ち合う。 ハスラー250に載った友人が青空の下颯爽とやって来た。 2人乗りで山の方へ出かけた。前日まではかなりの雨が降り続いていたので、久しぶりのお天気だった。 大量の雨で空気も洗い流されたかのように澄み渡り、空は雲ひとつない快晴。 「スカイブルーってこう言うのやね」。 バイクの後ろと前で言葉を交わした。 峠を越えた辺りで、バイクをとめて休憩をした。山間から見える空は山と山の間に宇宙が見えるかのような深みのある青だった。 「ちょっと乗ってみる?」 「いいの?」 「ちょっとだけね」 「うん」 「大丈夫?」 「大丈夫だと思う、、、」 ヘルメットをかぶり、バイクに乗り、スターターキックを蹴り、エンジンをかけた。 以前、空き地で乗らせて貰った50ccとは、エンジンの響きや車体の大きさ、体に伝わる振動が全然違っていた。 クラッチを切ってギアをローに入れ、ゆっくりとクラッチを戻していく。 「。。。。。。」 そのバイクはクラッチが遠いのか、なかなか繋がらなかった。 「ゆっくりね」 と友達の声が聞こえた瞬間、ガンとショックが体に伝わり、バイクは急激に飛び出した。 体はまだ、動き出さず、取り残されたようにハンドルにしがみついた。そのときスロットルを引っ張った形になり、全開に近い状態になった。 バイクはウィリーした、ハンドルを握りしめた。アクセルは全開のまま崖に向かって急発進した。崖の手前が少し盛り上がっていた。 そこに乗り上げて、 ジャンプ 視界全部が真っ青の空になった、 地上から青空へ向かってダイブした。 意識だけが青空へ向かって突き進んでいく! 時間は止まり、上も下も右も左も全て、360度が青い空。 こんなに青い空は、見たことがない! 。。。。。。。。。。 どれくらい時間が経ったのか分からなかった。 とても長い時が流れた様な気もするし、ほんの一瞬のような気もする。 友達の顔が、微かに脳裏に浮かんだ。 夢かと思う。そこに友達がいた。 「大丈夫?」 すごく心配そうな友達の顔があった。 「大丈夫だと思う」 少し体を動かしたら、頭からヘルメットが真っ二つに割れて転がった。 肘をついて体を起こし、転がったヘルメットを持ち上げようとした。 その瞬間、腕に激痛が走る。 おっ、折れてる、、、。 もう片方の手を伸ばした。 だめだ。こっちも折れてる。 自分が倒れていたのは、大きな丸い岩の上だった。 ヘルメットをかぶっていなかったら、頭は割れていただろう。 どうしよう、バイクは川の中だし、こんな山の中から、こんな体で歩いて帰るのは絶対無理だ。もう少し行けば途中に民家があったから、そこで頼めば何とかなるだろうか? 動かない体とは裏腹に、頭の中は竜巻のように回り始めた。 その時、 「お~い! 大丈夫か?」 上の道から人の呼びかける声がした。 「大丈夫です」 「今降りていくから、」 車で通りかかった2人の男性は、直ぐにボクたちのいる崖の下まで降りてきてくれた。 手を貸してくれたが、自力で崖を這い上がった。 上がって見下ろすと10m以上の渓谷の下に、川の中に横たわっているバイクが見えた。 その男性たちの車に乗せてもらい、家までつれて帰ってもらった。ありがたかった。どれだけ感謝しても足りないくらいなのに、その時僕たちは、名前さえきいていなかった。 しばらく休んでから、ひとりで病院に出かけた。 病院の先生はかなり年をめした方で、レントゲンさえ撮ってもらえなかった。 「痛みが止まらないようだったら、また来なさい」 と言われ、ボクは薬をもらって病院を出た。 あと100m程で家に着くと言うところで、腹部にズキンと痛みが走った。膝を突いて突っ伏した。 手首が痛かったので、肘をついて四つんばいで家まで帰った。 家のベッドで寝ていると、激しいむかつきが襲ってきた。 はらわたが全部飛び出しそうなむかつきだった。 火山が噴火するように、そのむかつきは襲ってきた。上を向いたまま嘔吐した。その嘔吐は、天井に届きそうなほど高く上がり、そのままボクの顔に落ちてきた。何故か緑色の嘔吐だった。まるでエクソシストだ。 ちょうど帰宅した父親が、慌ててボクを病院に連れて行った。 すでに殆ど感覚が無くなり、あるのは体中をものすごい力で圧迫しているような鈍痛が続いていた。 緊急入院。 その晩は、一生これ以上の痛みを我慢することがないような、強烈な鈍痛で気を失ったようにして眠った。 それが眠りだったのかどうか分からない。意識はハッキリとしている。しかし、病室だったはずの景色が、真っ青な青空に変わっていた。 それも不思議なことに、360度真っ青な空に囲まれている。上下左右真っ青な空に囲まれている。そんなあり得ない世界で、ボクは何処かへ向かおうと思案していた。 「どこへ行けば良いんだろう」 「・・・・・・」 誰も答えてくれるはずはない。 だけど、誰かがそこにいる。 そんな気配だけが、ボクの回りにウロウロしていた。 どうすればいいのか分からなかった。 歩いて歩いて歩き回った。 いくら歩いても、360度真っ青な世界は、いくら歩いても変化なんかあるわけがない。 バイクに乗って崖から落ちたときに、目の前に広がった真っ青な空にタイムスリップしたかのようだ。 見えない気配に翻弄されながら、あっちへ行ったりこっちへ行ったり、どれだけの時間そんなことをしたのかわからない。 何かに引き戻されたかのように、気がついたとき、そこは、また病室だった。後で聞いた話しでは、その時、危ない状態だったそうだ。 しかし、それから、何日か激しい鈍痛からは解放されることがなかった。 両腕と、肋骨を4本骨折、脾臓破裂、胃と腸は、痙攣したまま動いていなかった。 「あと1日、腸が動かないと、開腹手術をしないといけません。」 医者はそう言っていた。 その晩、ボクは意識は胃と腸に集中していた。濃い霧の中で見知らぬ誰かと聞き取りにくい会話を交わすようだった。 話しかけても、話しかけても、こちらの思ったようには、答えてくれない。 腸と会話する人なんていないだろうから、それも仕方のないことだ。 空が白みだした頃、 腸がボクに答えを返した気がした。 胃がボクに微笑みかけた気がした。 動き始めるぞ!絶対そうだ!やっと言うことを聞いてくれた 「ありがとう!」 こんなにドキドキしたのは、生まれて初めてだった。 小学校の頃に1人で壇上にたって、発表したときより、好きな子に初めて告白したときより、比べものにならないくらいドキドキした。 接骨医がまだ病院に来てくれなかったので、添え木だけした片手をブザーにかざし、ボタンを押した。早朝だったので、看護婦さんが直接様子を見に来てくれた。 「どうかしましたか?」 「お腹が、動き始めた気がするんです」 「先生を呼んできます、ちょっと待っててくださいね」 そう言って、看護婦さんは踵を返した。 聴診器を当てた先生は、ニッコリ微笑んだ。 「弱々しいけど、しっかり動いてます」 「もう大丈夫!、よかったね」 ホントに良かった。後はちゃんと便が出るまで安心できないのだけれど、ひとまずほっとした。 そして、少しずつ回復していった。 しかし、退院はしたももの、3ヶ月の間後遺症に苦しみ、今度は第2日赤に夏休みの間、入院することになった。苦しい検査ばかりの大変な入院だったが、楽しい出来事もいっぱいあって、楽しめた分、回復したんだと思える。 この事故のお陰で、心のあり方が変わった気がする。 こんなに強烈な出来事がなければ、人は変われないのか? 必ずしもそうとは限らないけれど、こんな事があると誰でも多少の変化はあるでしょうね。 それからも人生の節目や変わり目は、何度も訪れることになるわけだけれど、それまでとこれまでとを分けるとしたら、少し次元が変わった事だけは確かだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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