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テーマ:心にのこる出来事(94)
カテゴリ:冒険少年の憂鬱
昔、昔、ヤマハのテストコースに走りに行ったときのこと。
走る前の心得として、大部屋でサーキットの走り方を解説してくれ、コーナーのラインの取り方だとか、S字カーブやシケインの走り方等のサーキット走行の基本を教えてくれた。 レース走行ではないので、追い越しは禁止、事故やトラブルが起きた場合は、徐行後停止、等の注意事項を繰り返し確認しいざサーキットへ。 スタートは、ルマンスタイルで乗りたいバイクまで走る。 目指したバイクへ先に到着した方が、その乗車権利を獲得できる。素行順もしかり。 スタート! ホイッスルと共に、走り出し目干しを付けていた先頭から2代目のFZ400Rを目指した。 もう1人同じバイクに向かっている人がいたが、それは知らぬ振りで思いっきり走った。 しかし、むんずと腕をつかまれ。 「これは、俺が乗る!!」 顔をみると、どこからどう見ても暴走族の兄ちゃん。 皮の繋ぎが似合わないこと似合わないこと(^^ゞ(笑) 「じゃ、どうぞ!ガンバって走ってくださいね」 ボクがそう言うと、彼はメンチを切るように睨みをきかされた。 気を取り直しバイクにまたがりエンジンをかけた。 ボクは3台目だ。先頭は、教官が走るので、実質は2台目になる。 20台ほどのバイクが空ぶかしをすると、ヘルメットをかぶった頭にも排気音が響き渡った。 信号が青に変わり、教官がスタートした。それに続いて順番にスタートする。最初の走行は、コースを2周だ。 スロットルを空けると、直ぐにセカンドにシフトアップする。そしてまたひとふかしして、直ぐにサード。クラッチとシフトチェンジのタイミング。クラッチを繋ぐ時の回転数の微妙なずれをシフトチェンジをするたびにつかみ、第1コーナーに入る頃には、バイクの癖は掴んだ。 第1コーナーの次は緩やかなS字カーブがあり、その次にシケインカーブがある。コースをくぐりコーナーが続く! しばらくショートストレートを走り、今度は、高速コーナーが左へ。 バイクを傾けたまま140km/hで快走。 そして、最終コーナーを膨らみながら曲がりきり、普通よりながいストレートに入る。コーナーの出口あたりから、フルスロットルで爆走! 59馬力の出力を使い切るように、スピードを上げる。 スピードメーターは200km/hを少しオーバーしている。 前方を走る教官の排気音を切り裂くように、音に突っ込み、駆け抜ける。 このコースは、ヤマハのテストコースだ。なので、直線が普通より長い。FZ400Rがフルスピードでストレートを疾走する。 第1コーナーに、ノーブレーキで侵入出来るだろうか。 200km/hでコーナーを曲がるなんて、経験したことがない。 やれば出来るのかも知れない。しかし恐怖の方が先走る。 そんなことを考えながらストレートコースが終わろうとしていた。 その時、前方を走るバイクのブレーキランプが煌々と光った。 「危ない!! 減速しすぎだよ!」 前のバイクは、ゆっくりと第1項ナーへ入っていった。ボクも仕方なくブレーキングを繰り返し、後に続いた。 前のバイクのコース取りが何だか変だ。スピードが遅すぎて、コーナーを曲がりながら加速をするものだから、だんだん膨らみ、またブレーキをかけ、また加速の繰り返しだ。 終いにはジグザグ運転のようになり結局次のコーナーに差し掛かるときには、曲がりきれずコースアウトしてしまった。 コースアウトと同時に、イエローフラッグが振られ、徐行運転に。 コースアウトしたバイクがコースに戻ってきたので、走行開始。 びびってしまったのか、さっきの周回より、スピードが遅い。 「怖そうな振りしてるけど、実は気が弱いんじゃないの~」って心の中でぼやきながら、スタート地点で全員停止。 教官が全員を集めて、走りについて再度説明と注意をした。 そして、次は3周回ることになった。 バイクの所に戻ろうとしたとき、先ほどの暴走族兄ちゃんがボクを呼び止めた。 「おぃ、あのバイク乗りたかったら乗ってもいいぞ」 先ほどの厳つさからは、笑えるほど気弱な声だった。 「いいの? じゃ、遠慮なく」 今回は、第1コーナーにノーブレーキで侵入出来るかも知れない。 そんなことを考えながら、ギアーをローに入れた。 コースの幅を全部使って、思い通りのコースを走る。そんな開放感と青空の下、緑に囲まれた壮大な空間で、風を切る爽やかさ。 マシンと一体化する。 風と戯れる。 高速コーナーでは、バイクの傾きに負けないように踏ん張る。 体中に風を感じながら、第1コーナーへ突っ込んでいった。 やはりノーブレーキで侵入することは出来なかった。 少しだけ減速し、少し膨らみ気味で、コーナーの出口ではコースギリギリまでいってしまい、冷や冷やだった。 何とかブレーキを掛けずに踏ん張り、少し狂ったコースを修正して、次のコーナーへ向かう。 次のコーナーを抜けた辺りで、イエローフラグがたなびいた。 そして、それは直ぐにレッドフラッグに変わった。 後ろを振り向くと、転倒してコースアウトしたバイクとライダーが芝生の上を滑っていた。 全員スタート地点までゆっくりと戻り、午前中の走行はそれで中止になった。 転倒したのは、あの厳ついけど気の弱い兄ちゃんだった。 足首のねんざで、午後の走行には顔を見せなかった。 テストコースは、特別な緊迫感があって面白い。 バイクや車の走行テストをする場所なので、それなりに設計されいるコースなのだ。 テストドライバーの様な技量はないので、極限の走りは出来ないわけだけれど、フルスロットルで駆け抜ける醍醐味は十分味わえる。 爽やかな風がそよぐ昼下がり。 フルスロットルで坂を駆け上がる。 前方は、きれいな青空だ。 昔事故を起こしたときと同じような、真っ青な空に向かって走った! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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